テンポラリーラブ物語

 氷室に相談しようとずっと考えて、そしてやっと勇気を持って会いにいったのに、思うように話せなかった。

 隣にいた新しいアルバイトの奈津子と一緒に出勤してきたところを見てしまうと、弱り目に祟り目となって一層衰弱する。

 時間がどんどん過ぎていくと、迫る恐怖に気が滅入っていく一方だった。

「サイトちゃん、一体どうしたの。体の調子でも悪いの?」

 千恵が心配する。

「えっ、ううん、大丈夫。ちょっと寝られなかっただけ」

「そう、それならいいんだけど。なんか困ったことがあったら遠慮なく言ってよ」

「なんだ、斉藤、寝てないのか。もしかして乱交パーティでも参加してたのか?」

 また川野のセクハラが始まった。

 なゆみはもう否定する気力も残ってなかった。

「はい……」

「えっ、サイトちゃん! どうしたの? やっぱり今日はおかしいよ」

「うほっ!」

 千恵はびっくりしてたが、川野は鼻から息をだして喜んでいた。

 そんなことどうでもいいと、なゆみは店の壁にかけてあった時計を虚ろな目で見ていた。
 
 一時間、一時間と閉店時間の7時が刻々と迫ってくる。

 追い詰められると妄想に襲われるように、このときジョンがここまで迎えに来るんじゃないかと、びくびくしてしまう。

 突然鳴り響いた電話の音ですら、ビクッと体が跳ねた。

 千恵が受話器を取り話している。

 受話器の下の部分を押さえてなゆみを呼んだ。

「サイトちゃん、氷室さんから電話」

「えっ」

 なゆみは恐る恐る受話器を耳に当てた。

「お、お疲れ様です。斉藤です」

「お前、今朝何か俺に言おうとしてただろう。一体何があったんだ」

「いえ、その何でもありません」

「電話で言えないのなら、仕事終わったらそこで待ってろ。俺がそっち行くから。わかったな」

 電話は要件が済むとすぐに切れた。

 ぶっきらぼうな対応だったが、涙腺が緩むほどなゆみには優しく聞こえた。

 一気に体から力が抜けて、傍にあった椅子にへたり込んでしまった。

 その後からじわじわと体が温まって、安らぎに変わっていった。