テンポラリーラブ物語

 耐えるといえばもう一つ。

 あの宗教のことだった。

 留学を控えているので、アメリカに行ってしまえばフェードアウトできるとばかりに、とにかく耐えることを決め込んだ。

 相変わらず、次から次へとビデオを見せられる。

 それが結構興味深い作りなので、娯楽として観ると知識を得られた気分になってくる。

 元々聖書に書かれてあることを分かりやすく役者や絵を使って説明してるので「へー」と感心することもあった。

 しかし、どうしても一歩踏み込んではいけないとブレーキを掛けてるので、まだ真剣に信者にはなってない。

 もちろん、なるつもりもことさらなかった。

 しかしそれが相手にも伝わるのか、最近崇拝する信者にしようと大掛かりになってきたように思えた。

 日曜日だけの参加が、いつの間にか平日、仕事が終わってからも来いといわれるようになり、英会話のレッスンを差し置いてあそこへ行く回数は増えていった。

 夜参加すると、なんと夕食が出てくる。

 これも無料で、食べたいとも言ってないのに無理やりに目の前に出されてしまう。

 柳瀬もジョンも「ここの料理は本当に美味しい」と絶賛だった。

 なゆみがどんなにいらないと断っても、沢山の信者が一同に大きなテーブルに集められ、その中に座らされると一人だけ食べない訳にはいかない。

 なゆみは渋々と無理やり口に放り込むように食べてしまうのだった。

 もしかして、この料理に何か薬でも入って洗脳させようとしているのではないだろうかと本気で思うくらいだった。

 だからどんなにお腹が空いていても美味しいと感じたことはない。

「なゆみさん、ここの料理本当に美味しいでしょう。皆わざわざ食べに来るくらいいつもここに集まるんですよ。僕もその一人で、今夜のメニューはなんだろうって思うことの方が多くなりました」

 柳瀬がいつもの仏の笑みを添えながらなゆみに話しかける。

 そんな顔をされるとなゆみはいつも逃げ場を失う。

「はぁ、そ、そうなんですか」

 なゆみは笑顔を返して、目の前の料理を無理やり口にいれた。

 またそれが美味しいと思って食べているように思われるために、何をやっても彼らの思う壷に嵌っていった。

 周りの人たちを見れば、どうしてというくらいすっかり信じきって何も疑っていない。

 食後はそんな信者達と交流会のようにゲームが始まり、親睦を深める。

 はっきり言ってホラーだった。

 なゆみはこれもあと少しの辛抱だと言い聞かせる。

 アメリカに行ってしまえば姿をくらませることができる。

 これ以上の試練はもうないと思いながら、ひたすら耐えていた。

 そしてこの後、更なる大試練が待っていようとは想像もつかなかった。

 もう、一人の手では解決できなくなる段階まで来ていた。