「お前仕事辞めたのか? 時々見にいったけど居なかったぜ」

「えっ、来てくれてたの?」

「ああ、あいつはいたけど、失礼な奴だからタフクは居ますかなんて聞けなかった」

 なゆみは勤務先が変わった事情を告げた。

 その時、顔は驚いたままだった。

「なんだ、場所が変わっただけか。それにしてもなんだよその顔。お化けでもみるような感じだぞ」

「えっ、いやだ。だって久しぶりなんだもん。びっくりしちゃった。ジンジャはこれから授業とってるの?」

「ん? いや、今日は取ってない。タフクを探しに来たんだ」

「えっ」

「俺さ、就職内定もらったんだ」

「うわぁ、おめでとう」

「ありがと。ずっと苦しかったよ。でもタフクにはちゃんといいたかったんだ。それと謝りたかった」

 メガネを通してジンジャの大きな瞳が潤いを増したように見えた。

 後悔を告げているような罪悪感がその中に潜んでいるようだった。

「謝るって、別にジンジャは何もしてないよ」

「俺さ……」

 ジンジャが何か言いかけたが、それは授業の始まりを知らせに来た先生に邪魔をされた。

「授業始まるな。そしたらまた今度ゆっくりな。今日は会えただけでもよかったよ。ほら、遅れるぞ、早く行ってこいよ」

「うん……」

 なゆみは動揺したまま、ジンジャと別れを告げた。

 ジンジャは何を言いかけたのだろうか。

 教室に入る前に、なゆみが一度後ろを振り返えれば、ジンジャはずっとなゆみを見ていた。

 ニコッと微笑んで手を振っている。

 以前と変わらない優しいジンジャがそこに居た。