テンポラリーラブ物語

 自分が築き上げたものをなゆみに見せたかったのか、なゆみに感化されてもう一度あの店で自分の当時の気持ちを見てみたかったのか、どっちにしてもなゆみの影響には間違いなかった。

 一回りも違う子供っぽいなゆみによって、氷室は自分の中の何かが変わりつつあるのを確実に感じていた。

「さっきはすまなかったな」

 やっと素直に謝ることができた。

 しかし、抱きしめた事で、自分の気持ちがばれてしまったかもしれない。

 そうなれば、氷室は素直に気持ちを伝える決心を固めた。

「いえ、別に、大丈夫です」

 なゆみはいともあっさりと、あっけらかんとしている。

「でも俺、お前を抱きしめて……」

「ああ、ハグでしょ。私いつもやりますよ。アメリカ行ったとき、癖になっちゃって抵抗なくなりました」

「そ、そうか」


 この鈍感さはなんだ。
 そこは俺の気持ちに気づくとこだろうが!
 

 氷室はなんだか気が抜けた。

 だが、却って気が楽になり、ふっきれた笑いをなゆみに向けた。

 どこからともなくコーヒーの香りがしてくる。

 カフェショップに目をやり、氷室はいつもの俺様の調子に戻った。

「お前、俺にコーヒー奢れ」

「あっ、はい!」

 なゆみの元気な声が、氷室の耳を通して、心の奥にまで刺激をもたらせた。

 暫くはこれでいい。

 氷室は優しい瞳でなゆみを見つめていた。

 二人は冗談を言い合いながら、カフェショップの中へと入っていった。