テンポラリーラブ物語

 なゆみは氷室の苦しい気持ちを真っ向から受け取り、自分も一生懸命になって、あんな受け答えをしてしまった。

 決してからかっていた訳ではなかった。

 なゆみにしても、氷室を助けたい一心だった。

 氷室に抱きしめられ、なゆみは大人しくそれを受け入れている。

 氷室にはそのままの気持ちを受け止める誰かが必要なのだ。

 これで、少しでも役に立つのなら、これもまた今まで自分が助けてもらった恩返しでもあった。

 恩返しと思った時、なゆみははっとした。

「氷室さん、さっきのトンカツ代なんですけど、いくら払えばいいですか?」

「えっ?」

 氷室は我に返って、慌ててなゆみを解き放した。

 そして何事もなかったように歩き出す。

「氷室さん? ちょっと待って下さい。だからあの、トンカツ代……」

「もういい、あれも奢りだ」

「そんな、それじゃ困ります。氷室さんってば」

 なゆみは本当に鈍感なのか、それとも何事もなかったように気を遣ったのか、それは氷室ですら判断しかねたが、お陰で二人はまたいつも通りに自然と戻っていた。

 なゆみをあの店に連れて行ってしまった──。

 氷室はなぜそうしたのか、今更になって自問自答する。