テンポラリーラブ物語

 緊張が走って固まったように、氷室の動きが一瞬静止した。

 気を取り直し、何事もなかったように再びシャーベットを口に入れ、おもむろに食べ干してしまうと、スプーンを投げるように入れ物に落としていた。

「何からも逃げてなんてないよ」

「氷室さん、嘘つきなんですね。それに嘘をつくのが下手だ。ほんとは夢を追いかけたいのに、失敗するのが怖いんだ」

「もういい加減にしろ。折角の食事がまずくなる」

「本当のことを言われたから、耳が痛いんでしょ」

 いくら気持ちが和んで親密度が増したと感じたところで、なゆみは言い過ぎていた。

 普段自分がやられていることを、やり返したのもあるが、氷室には確かな才能があり、それを簡単に諦めている事に苛立ちを感じてしまった。

 一言いわずにはいられなかった。

 突然氷室はテーブルの請求書をひったくるように掴んで立ち上がり、そしてレジへと向かった。

 「釣りはいらない」と5000円札を置いてなゆみを置き去りにしてさっさと出て行った。

「あっ、氷室さん」

 なゆみは店の中であたふたとして、店長に頭を下げて礼を言うと、慌てて後を追いかけた。

 氷室はなゆみなどいなかったように、人ごみに紛れて繁華街をスタスタ歩いていた。

「氷室さん、待って下さい」

 追いついたなゆみが後ろから氷室の腕を掴んだ。

 そのとたん氷室は立ち止まり、暫く無言のまま動かなかった。