春 〜Hikaru & Yuna〜

電車に揺られて2時間。


駅から少し歩くと見えて来る工場。



ここで中途採用の社員として働かせてもらっている。


高校すらまともに行っていない俺に加え、顔も広く知られたとても厄介な人間を、快く受け入れてくれた。



そんな会社くらいは真面目に行きたい。



着いて早々、先輩社員の川上さんに声をかけられた。


「昨日ひどい顔してたけど、あ、コンシーラー塗ってる。今日は製造じゃなくて事務やれば?立ち仕事よりは楽だと思うけど?」



女の人は凄い。



バレないように肌の色とマッチしたクマ消しを使っているのに、結奈も川上さんもすぐに気が付く。


「いえ、昨日ぐっすり寝たんで製造で大丈夫です」


「そぅ?子ども、産まれたばかりなんでしょ?無理しすぎないほうがいいよ」



この会社の人たちは俺が妻子持ちということを知っている。


籍は入れてないけど既婚者という扱いだ。



俺の担当は工場での製造作業。


大手菓子メーカーの大工場だ。


事務作業もできるにはできるけど、頭を使うので得意ではない。


工場でひたすらその日その日で同じことを繰り返す作業。



今日はあるお菓子のツヤ出しと言われる作業だ。


スプレー状の器具を使って小さいお菓子一つ一つにツヤ出し成分を吹きかけるもの。



楽な仕事に分類される。



「おはようございます」



工場の入り口で全身消毒、マスクをしてそこにいた上司の村井さんに挨拶をする。



「おは…山城くん!?今日はてっきり休むものだと思っていたよ!?」



50代半ばのぽっちゃりな村井さんは小さな目をパチクリさせた。



「昨日すごーーーく顔色悪かったでしょう!?みんな心配してたんだよ」



「すみません…。大丈夫です。多少無理しないと家族に悪いので」


「今日はそんなに顔色悪くないけど…人は足りてるから、無理そうだったら帰りなさいな。あぁ、ほら、君まだ有給使ったことないし!」


男の人にはわからないクマ消し。


助かった。


村井さんの気遣いは嬉しいけど、こんなんでへばっていては俺のこれからが思いやられる。



たった10時間。



なんてことないはずだ。