春 〜Hikaru & Yuna〜

「おかえり。お疲れさま。今日はね愛菜全然泣かなかったから休めたの。
掃除と洗濯は終わってるから、ご飯食べてお風呂入ったら寝ちゃって大丈夫よ」



珍しく帰りが22時を過ぎた日。



気温はちょうどいいはずなのに猛烈な寒気がした。



結奈は愛菜の頭を撫でながら俺に話す。



そっか、休めたか。
よかった。



「じゃあ今日はそうさせてもらおうかな。ご飯作るの朝でもいいかな」



カバンを置いてスーツを脱いでいると、結奈が立ち上がった。



「待って。こっち向いて」



ネクタイを外しているところで顔を挟まれた。



「熱、測って」



怖い顔して体温計を渡される。



自分でも体温が高いことを分かっていたから体温計を渡す手を無言でそっと払いのけた。


仕事を休むことも家事を休むこともできないから。
体温を知ってしまったらだめだと思った。



「光!…フラフラしてんじゃない…!もう今すぐ寝て!おかゆ作るから食べれる時食べて」




俺の体を支えながら顔を覗き込んで来る。


多分今俺の顔は真っ赤だ。



どんどん熱が上がっているのがわかる。



寒気も増してきた。



結構やばい。



結奈の支えがなければ倒れそうだ。



「これからはできないときはやらなくていいから、自分の体を一番に考えて」



心配してくれる結奈に申し訳なく思っていると、凄まじい吐き気と頭痛に見舞われた。



「ちょ、トイレ…」



喋ることも難しいくらいに体のあちこちから悲鳴が聞こえる。



便器に向かって嘔吐し、寒いのに身体中から汗が噴き出た。



洗面所で口をゆすいだついでに顔を見ると、ひどい顔をしていた。




元々白い肌は青白くなり、唇は真っ青、目の下には真っ黒なクマ。

これ、誰の顔だよ…まるでゾンビだ。



寒くて寒くて仕方のなかった俺は温もりを求めてキッチンでおかゆを作る結奈に抱き付いた。


「うー、寒い」



「お布団入ってて。おかゆもうすぐできるから」



結奈の体、あったかいなぁ。



「嫌だ、離れない」




「悪化する前に!
ほら早く!」




仕方ないなぁという感じで手を引いて歩く結奈。


その背中がだんだんぼやけて遠くなる。



結奈が布団の前で何かを言ったが聞こえなかった。


耳鳴りで遮られてしまった。



あぁ、眠い。


寝てしまおう。



全部明日やればいい。