あの時君が伸ばした手は

その傍らで桐谷さんが少し機嫌を損ねていた。

「どうしたの?」

僕は訊いてみる。

「こんなときに笑顔で挨拶だなんて信じらんない!」

髪を明るく染め、少しケバくなった彼女は口が悪いことで有名だ。


でも諸星さんは言っていた。

『萌ちゃんは気持ちをストレートに言ってくれるから、大事なものを見失いそうになったら必ず気づかせてくれる』と。

それに桐谷さんが一番信頼していたのが諸星さんだ。

信頼できる唯一の人を失ったんだ。
彼女が一番心を痛めているのかもしれない。