アミューズメントパークを後にして、貴哉は車を紺野家に走らせた。
2度目なので驚きはしないが、改めて見ても由梨には別の世界だ。

「あのですね、私の父ってconnoの系列の会社に勤めてるらしいんですよね」
「ああ、みたいだね」
「聞いてました?」
「和成さんから直接聞いたよ」
大したことが無いように言われて、由梨はそんなものでいいのかなと、納得した。

「貴くんおかえりなさい、由梨ちゃんよく来てくれたわね!嬉しいわ」
にこにこと言われて由梨は、お邪魔しますと、言ったら
「やぁね、他人行儀に」

「お父さんも洸介も会食とか何とかでいないから、今日は私たちだけね」
麻里絵はそう言うと
「ね、由梨ちゃんは料理出来る?よかったら手伝ってくれない?今用意してるの」
「是非」

麻里絵に言われ、由梨はキッチンに向かった。

広い本格的なキッチンには、下ごしらえの済んだ食材が並んでいる。
「今日はね、おでんにするのよ」

以外に馴染みある料理を言われて由梨はホッとした。知らない名前の料理を言われたらどうしようかと思ったのだ。

「あとは、天婦羅ね」
「はい、じゃあ私はどれから」
「ゆで卵の殻剥いてくれる?」

麻里絵が貸してくれたエプロンをつけて、由梨は隣に並んで料理をはじめた。
「志歩はね、15歳から音楽学校じゃない?こういうの、憧れだったのよね」
麻里絵はにこにこと言っている。
「貴くんも、手伝ってはくれたけど、何にも話してくれないしそのうち家も出ちゃったし。絢斗はキッチンに入ったこともないしね」
「お喋りしながらのお料理って、楽しいわよね」
「そうですね、私も母と愚痴とか聞いてもらいながらしてました」
「羨ましいわ。お姉さんもそうしてたのかしら?」
「だと思います」
「あのね、由梨ちゃん。私は志歩が歌劇団で男役をしてるのは本当に嬉しいの。けどね、やっぱり女の子と買い物に行くのが夢で、明日の由梨ちゃんとの買い物はとっても楽しみなのよ!」
「あ、私もそう言って頂けると嬉しいです」

そうして、お喋りがほとんどのクッキングタイムは終わりとなり、3人で夕食となったのだ。

セレブな紺野家と、おでんとは不似合いだからもしかすると、庶民な由梨に気を使ったのかな、なんて思ってしまう。
麻里絵と作った夕食はとても、美味しかったし、貴哉もたくさん食べていた。

後片付けの時には、どうやら通いのお手伝いさんがしてくれるらしく由梨たちは居間で寛いだのだった

前回も泊まった貴哉に部屋には、由梨の着替えとネグリジェが置かれていて相変わらずの至れり尽くせりだ。

「由梨、俺はちょっと電話してくるからバスルームは先に使ってて」
「あ、はい」
貴哉が持っていたのは仕事の携帯だから、仕事なのだと由梨は思った。

(週末は、お泊まり覚悟で備えておいた方がいいのかも)

それはそれで…期待してるみたいで、恥ずかしいかな…。

それに、なにより紺野家のシャンプー等はとても良いものを使ってるのだろう。念入りに手入れをしなくても、艶々に仕上がる。
ボディミルクは、とてもいい香りだ。
ありがたく使わせてもらい、由梨はこの贅沢に慣れたらどうしようかと思う。

貴哉はまもなく部屋に帰って来て、バスルームに入った。

貴哉と遊園地で想いを確かめ合った今はとても満たされた気持ちで、彼を見ている由梨の瞳はきっとハートが見えても仕方がないように思えた。
バスルームから、出てきた貴哉を由梨は物欲しそうに見つめていたかも知れない。
「色っぽい目で見つめて、誘ってるの?」
由梨の座っているソファに近づいて、貴哉は由梨の顔をすぐ近くで見下ろした。
「…だって…」
頬を染めながら、由梨は見上げた。
「観覧車での、キスだけじゃ。足りなかった?」
「…もっと、欲しいです。貴哉さんが…」
「可愛いよ、由梨」
貴哉のキスが、期待通りに由梨の唇に落ちてきて、由梨は彼の背に腕を回して体を寄せた。
そうすると、由梨の胸が当たることをわかっていて…。
本能と、女の意図と、狙い通りに彼の手が由梨の体に触れて由梨は甘い吐息を漏らした。