そうこれは私の“old tale ”(昔話)。
もう大きい荷物は新居に送ってあるので
小さいポシェットを膝において
どんどん離れていく愛しい街を見つめる。
さようなら、私の生まれ育った故郷。
そっと、心の中でお別れをした。
東京の友達たちは私の性格を知っているからみんな関西なんて上手くやっていけるのかと心配してあちこちのクラスから押しかけてきた。ほぼ野次馬だが。
当の私は半分開き直って
なんなら高校生活1年くらい一匹狼でだって生きてやると親友の莉子に豪語してきた。
もののいざ職員室の前にくると入れない。
新しい制服は前の学校のブレザーとは違い
女の子っぽい白いセーターで自分には
似合わなすぎて、あの紺の硬いブレザーが懐かしい。あのブレザーは私を象徴しているような型で今の自分の場違い感が際立つ。もうすぐホームルームだから結局は担任に連行されるのだがさっきから職員室の前をうつむいてウロウロしている。
その時、『おいアンタ邪魔』とうつむいている私の上から低い声が降ってきた。
何事かと上を向くとそこには苛立った様子で私を睨む男子生徒がいた。
『❪真優❫え?あ、あのすみません。』
と反射で謝ると、
『こっちは急いでんだよ。』と
私に吐き捨てそいつは職員室に入っていった。何が起こったのかとポカーンと口を開けていると担任だと思われる男の先生が職員室の中から私を見つけて『新川!!やっと来たんか!待っててんで!マイペースやなぁ』と私を手招きした。
ゲッ見つかった。と思いながらも
もう白状して連行されるかと恐る恐る
職員室に入るとアイツはどうやら私の担任に用があったらしく私をいかにも誰だよコイツという目で軽く睨んでいる。
1番最初に口を開いたのは担任だった。
『❪担任❫2人ともなんや知り合いか?
そんな見つめあって』
『『ちゃうわ・違います!!!!!』』
と見事にはもった。
『❪担任❫仲良しやんか笑まぁそれは都合がよかったわアラカワ、こちら今日からクラスメイトの新川真優さん。
東京から引っ越してきたんやで〜。
“ 新川”違いやし、仲良くなれそうやなぁ』
ハハハハと、担任の笑い声だけが響く。
新川違い?????
何のことかと混乱していると
『お前もしかして新しい川って書いてシンカワなん?』とアイツが聞いてきて
『❪真優❫え、うん。そうだけど・・・え、もしかしてアラカワって・・・』
『最悪やーーーー』とわめくアラカワの
反応で全てを悟った。
私とアラカワは担任の言う通り“ 新川”違いなのだと。最悪だ。絶対からかわれるに決まってる。私は青ざめてからかうクラスメイトたちの顔が頭をよぎった。
『❪担任❫なんやなんや2人ともそんな喜ばんでええやろ。とりあえずアラカワ、シンカワのこと面倒みたりや〜。
あ、ちなみに俺は3年2組の担任の
神田智(かんだ さとし)、かんちゃんって呼んでなシンカワ』と爽やかな笑顔で言われたがその時はもう正常に物事を考えれず
何も答えず苦笑いをしておいた。
一方アラカワはこちらをギロッと睨んで
神田先生に『❪新川❫絶対嫌やからな!』と
吐き捨て職員室を出ていった。
私はなんで初対面なのにこんなに
嫌われなければいけないんだとフツフツと
アラカワに対する怒りが湧いてきて
思わず
『❪真優❫先生!!なんなんですかあの男子!!
会って早々失礼ですよ!!』と先生に抗議した
『❪神田❫ハハハそんなカリカリせんと。
可愛い顔がもったいないで〜』
『❪真優❫かっかかかわいいとか適当な事言って誤魔化さないで下さい!!!』と
初めて男の人に可愛いと直接言われたので
動揺して怒鳴ってしまった。。。。
神田先生はビックリした顔をして
『❪神田❫ごめんごめん。
でも適当に言ったわけちゃうで??
アイツは新川陽太(あらかわ ようた)
根はいい奴やねんけどシャイやからな〜
シンカワ許したってな。
ちなみにあいつ、クラス委員やから
困ったことあったらアイツに頼りな』
とサラリと受け流されてなんだか
大人ってずるいなと思いつつ
先生の笑顔をみていると
それ以上怒れなくなり、
『❪真優❫努力します』と諦めた。