ロールカーテンを短く小さくしたような、巻物風のシルクの布の上には、色とりどりの糸で美しく立体的に縫い取られたお雛様とお内裏様。二人並んでその上品な顔に微笑みを浮かべている。色の洪水かと思うほどの圧倒的な存在感の二人のバックは、淡い卵色の布。どこを切り取っても上品の一言に尽きる、それはお雛様のタペストリーだった。
布の右下には周囲を黒で囲った綺麗な桜色で娘の名前が縫い取られている。「漆原 桜」その美しい縫い取りをみたとき、私は感動のあまり指先が震えたのを感じたほどだ。
「・・・これ、どうしたの?」
手を洗って戻ってきた夫は私が用意した晩ご飯をレンジで温めもせずに机に運びながら、ぼそっと言った。
「作ってくれた」
「え、本当?これって手縫いなの、まさか!?って、えーっと誰が?」
「会社の人の知り合い。注文作品だけど手縫いではない」
「え、え??」
全くもって情報不足で判らん!
私はともかくそれを綺麗に巻きなおしてソファーへと丁寧におき、ダッシュで台所へ突撃してヤツの手からお皿を奪い、レンジへと突っ込んだ。
「ちょっと、折角なんだから温めなさいよ!不味くなるでしょ!」
「・・・あんま変わらないし」
うるせーな!そこは嘘でも温めたら美味しいけどって言え!!私は炎を吐く勢いでやつを威嚇しまくって、あいた両手で全ての料理を温めなおす。私がいるんだ、それくらいはやるっつーの!



