「出来ないでしょうがよ!うちの母さんはどういうことなのって絶対我が家に鬼電してくると思うし、それはきっと冴子母さんだって同じだと思うわよ」
最後の威嚇がきいたらしい。ヤツは一瞬箸を止めて、空中の一点をみつめて停止した。
彼の母である冴子母さんは行動派のチャキチャキ女性。明るく、おきゃんで、よく喋る。本当にこの面倒臭がり男はあなたの息子さんですか?って何度も聞きたくなるくらい、性格という点で親子が似てないのだった。
で、この冴子母さんは主に私に関することではヤツをよくストーカーするのだ。基本は電話の繋がらない現場に出ている息子を、あの手この手を使って呼び出す。
第一声が、「だ~い~ちいいいいいいいいいい!!!」という絶叫だというのも有名な話。ヤツは、それを大変迷惑がっている(母親から電話があるときには受話器は手でぶら~んともつのが大事らしい。何故なら大絶叫で鼓膜が傷むから)。
はあ、と小さくため息をついて、ヤツは食事を再開しながら言った。
「お雛様があればいい?」
「え?」
私ははっとして娘の口に離乳食を突っ込みながら振り返る。そのせいで娘の小さな口はびよーんと横にのびてしまった。・・・すまん、さーちゃん。いたかったよね。
「どうするの?君が買ってくるの?ねえ私、大きいの嫌だよ、それに、手間隙かかるのも」
今度は娘をみながら慎重に食べさせると、ヤツのだら~っとした声が聞こえた。
「・・・判った。じゃあ、それで」
「は?」
「ご馳走様」
「え、ちょっと?」



