それは微かな動作で、ヤツという男をやっと見慣れた私だからこそ、認識できたってくらいのかすか~な動きだった。
「・・・何でダメなんだ?」
「え?」
聞かれた意味が判らずに、私は目をぱちくりさせる。
「買いたいって言ってるんでしょ、させたらいいんじゃない」
「え、だってお雛様だよ!?」
私は思わず声を大にしてしまう。するとヤツはまた微かに首を傾げてから味噌汁を飲む。
「何が問題?」
そうか、それが判らないのか!私は一人で頷くと、椅子の上でふんぞり返って演説を始めた。
「まず第一に、母親たちが買いたがっているのは雛壇なのよ、壇!それも5段とか7段とかあるような巨大なセットなの、お雛様ご一行様って言えるような!出すと間違いなく4.5畳くらいあるの。それ、どこに仕舞うの?」
口を尖らせてそう言うと、ヤツはこっちを見もせずにぼそっと言う。
「まだ2階の納戸、空いてるでしょ」
「誰が仕舞うのよ!」
うっきー!まだ判ってない!私はご馳走様、と呟いてお皿をシンクへと運ぶヤツの背中へ向かってまくし立てた。
「買ったら終わりじゃないのよ、判ってる?毎年母親たちが2月にはお雛様出したのかって来る。勿論それまでにちゃんと出して、綺麗に飾り付けなきゃならない。それは私達の仕事。それから仕舞うのもよ、きっと桜の為云々って説教されるから、ちゃんと3月の節句すぎたら仕舞う必要があるわ。出したときより大変な後片付けが!それも勿論、私達の仕事」
私「達」ってところをすごく強調して言ってみた。
あんたと私だよってことだ。私だけ、じゃないんだぞ、これはあーんーたーの仕事でもあるんだぞってことだ。



