漆原大地、という壮大で安定した名前をもったうちの夫は、史上最高に面倒臭がりなのである。
それはもう性格というよりは才能と言った方がいいかもしれないってくらいに、面倒臭がり。よく呼吸するのは面倒臭くならないな!って常々思うのだ。生きるのは面倒くさくないのか?って。
ヤツがうんざ~りした顔で、おっもいため息を吐きながらこういう時。
『もう面倒だからそれでいい』
これね。確かにその後は文句など言わないが、それはそもそも対象物に興味がないからだってのが判っている。
で、今は夜の10時。うちの一人娘である桜は湯冷ましを飲んで8時半には寝てしまっている。私は何としても夫婦で会議をせねばならない、と思ってヤツの帰宅を待っていたのだった。
「・・・起きてたの」
いつものようにたら~っと帰ってきて、ぼそっと一言呟いて、夫は洗面所へといってしまう。第一声が起きてたの、ではおかしいだろうがよ!ただいまでしょ!そう心の中で突っ込んで、私はヤツの晩ご飯を食卓に並べる。挨拶に突っ込むより重大な問題があるのだから。さて何から話そうかって考えていた。
その内ヤツが手と顔を洗って戻って来て、手をあわせてお箸を持ったときに、私は前の席に滑り込んで話し出したのだ。
あのね、今日お母さん達がきたんだけど、って。
またのびかけている前髪の向こう、相槌はないけれど一応目を私の方へ向けたヤツは、黙々と御飯を口へと運びながら聞いていた(と思う。相槌ないんだけどね、うん)。
「お雛様を桜の初節句にって買ってくれるというのよ!」
で、とりあえず今日は逃げることに成功したんだけど、と私が言った後に、首を傾げたのだ。



