・オマケ短編「漆原家のお雛様」・



 あのね、考えたんだけど。

 そう言って、うちの母親が夫である漆原大地の母を連れて我が家にきたのは秋も終わりのころだった。

 にこにこと並んで座って顔をほころばしている二人の母親を均等に見詰めたあと、若干の嫌な予感を感じながら私は聞いた。

「・・・・何を?」

 まず、うちの母が口を開いた。

「お雛様をね、買おうと思うのよ!桜ちゃんにね」

 それから、漆原家の母が。

「ほら、都ちゃんのはもう供養して処分になってるでしょう?うちは息子だけだったからお雛様は元々ないし、折角産まれてきた女の子のお守りとしてね」

 って。

 私はとりあえず、落ち着こうとお茶を一口飲んだ。この前遊びに来た奈央がおいていった、最高級の玉露だ。きっと最高級の働きをして私のざわついた神経を最高級レベルで鎮めてくれるはず、そう思って。だって高いものなんだし。

 ずずー・・・・。

 音を立ててお茶を飲む娘を、実母と義母がにこにこと見守る。

 それは絶対にノーとは言わないだろうな、という確信に満ちた笑顔だった。むしろ、手放しで喜んでくれるに違いない、という感じの。ああ、大変だわ。

 私はことん、と茶碗をおくと真顔で母親たちを見詰め、キッパリと、はーっきりと、発音明瞭にして言った。

「必要ありません」

「え?」

「だから、お雛様はいりません」