新・鉢植右から3番目



『娘?』

「あ、そうそう。女の子だったのよ。とにかく君、病院に来ない?」

 怒鳴ったことに疲れた私がぐったりとそう言うと、ヤツはしれ~っとこう言った。

『今から?だって、もう産んだんでしょ、俺が必要だとは思えない』

 私は、予想していたのだ。こういうことをヤツなら言うだろうと。なので、あっさりと諦めようとした。ま、あいつだしね、いっか。って。実際こられてもすることないし、邪魔は邪魔か、って。

 結婚した時がした時だし、プロポーズのようなものはあったにせよそれも実にヤツらしい、直接的でないまわりくどい方法だったのだ。勿論判っていた。例えば子供が生まれると聞けば病院に走ってくるとか、分娩台の横に立って頑張る妻の手を握るだとか、生まれたての我が子を最初に抱きたいだとか、よもやそれをビデオにおさめておきたいだろうとか、ヤツは思わないだろうって。

 そうそう、私は十分に理解した上で、そんな感じのデモストレーションまで脳内で何度もしていたから、実際に夫からそんな態度や言葉を貰っても傷付いたりしなかったのだ。

 あ、やっぱりね、そんな感じ。

 だけど隣でしっかりと聞き耳を立てていた彼の母、冴子母さんは、そのままでは終わらせなかった。

 はーい、じゃあまた休みの日にでも来てね、と私が言うより先に受話器をひったくり、まだあまり耳も聞こえてないはずの新生児がビックリして目を開けるほどの大声で怒鳴り散らしたのだ(通りかかりの助産師さんなんて飛び上がっていたのを私は見た)。