「漆原さん」
看護師さんに呼ばれてパッと立ち上がる。処置室のドアを開けた看護師さんは、私を見て微かに微笑んだ。そして手で入室を合図した。
ぶっ飛んで行きたかった。だけどぐっと拳を握ってこらえて、しっかりと床を踏みしめて歩く。ドアを抜けて、ベッドに寝転ぶ桜に近寄る。娘は小さな寝息をたてて、寝ているようだった。
よくみたらうちの父親ほどの年齢の医者が、穏やかな顔でいった。
「反応が戻りました。良かったです、痙攣が長くて呼吸困難で脳が、とも思いましたけど、今は落ち着いていて反応も正常です。呼吸もしっかりとしてますよ」
「───────あ」
ありがとうございます、そういうつもりだった。だけど咄嗟に出てこない感謝の言葉は、一緒に後ろからきていたらしい夫から発せられる。
「ありがとうございました」
その声に導かれるように、私も頭を下げる。
「ありがとうございました!」
医者は軽く頷いて、言葉を続けた。
「熱がまだ高いので、点滴して帰ってください。別室で。もう大丈夫と思いますが、また後日痙攣が起こるようでしたらすぐに診察を受けるように」
「はい!」
ではこちらへ、そう促されて、寝たままの桜をベッドごと別室へと運ぶ。そして点滴が終わるまでを待ってた。



