「泣くな。・・・泣いても、桜の助けにはならない」

 私は頷いた。

 そして、両手で乱暴に目を擦る。

 その通りだと思った。今、あの金属のドアの向こうで頑張っているのは、他でもないあの子なのだ。親の私がメソメソしてちゃいけない。ダメだ、そんなのは。そうだ。

 ぐっと唇をかみ締めた。私は自分を責めることで、逃げていた。そう気がついたのだ。

 そんなの今は重要じゃないのだ。

 視界がクリアになって、眩暈も消えた。頭の上にはヤツの温かい手。ゆっくりと、ポンポンと手を落としてる。

 その感覚、温度にとても安心した。

 そうだ、私、泣いてる場合じゃないんだぞ!

 どうなっても受け入れる覚悟を。もし、もし桜に障害が残ることになっても、叫び声など上げないように。最悪なことを考える中でも、希望を見つけ出せるように。

 あの子は死ぬわけじゃない。

 決心して、壁の時計を見上げる。

 あの子のそばから離れて、もう10分が経とうとしていた。