ヤツの隣にトン、と腰を下ろした。周りの人とは誰とも目があわない。皆自分の大切な人の状態を心配していて、処置が終わるのを待っている人たちだとわかった。

 つまり、私達と一緒。

 私達の子供が。

 やっとしっかりとこちらを見て、嬉しいときにはきゃっきゃと声を上げて笑う娘が。あの明るい笑顔で家中に生命力をばら撒く娘が。

 今は──────────あの金属の扉の向こう側で、一人でぐったりとしている。

 私は座った自分の膝の上で力を失ってだらりとおかれた両手を見詰めた。

 熱が、あった。

 だけど明日の朝に病院にいこうかと思ってた。

 今日はもう夜だし、今からでは大変だしって思って。大丈夫だろう、このくらいならって。高熱でなかった。ただ微熱のような状態で3日間だった。

 それが、あんな急激に上がって・・・痙攣までおこるなんて。

 だけど、だけど、それを救えたのはあの瞬間は私だけだったはずなのだ。

 あの子が──────苦しんでいた、のに。

 私は何をしていた?呆然として、抱きしめていただけだ。ヤツが帰ってきて怒鳴るまで、パニクっていただけ。何も・・・しなかった。電話すら。助けを求めることすら、しなかった。

「・・・」

 何かを言いたいのに、言葉が出てこなかった。思い出すのはさっきの紫色をした娘の顔ばかり。

 目を右上に固定して死人の顔色をした桜。

 ああ・・・どうしよう。


 どうしようどうしようどうしよう・・・。