言葉を失っている内に病院へ到着してしまう。バタバタと人が走る音。それから桜は運ばれていって、私は混乱したままで誘導されるがままに着いていく。

 頭の中は「どうしよう」こればかりだった。

 痙攣の治まった桜を医者が診察していく。ぐったりと瞑られた桜の目を医者が開けた時に私はぎょっとして仰け反った。

 娘の両目はぐぐっと右上を向いたままで、微動だにしない。その感じがあまりにも「異常」で、いつものように反応しない娘の様子に眩暈が激しくなった。

「反応がないですね。目が戻ってこない。これは、ちょっと・・・」

 医者が低い声でそう言いながら桜の上に屈みこむ。

 看護師さんが「お母さん」と声をかけてきた。

「ちょっと見るに耐えれないようですし、外でお待ち下さい。検査に入ります」

 医者が娘に声をかけ、体中を触って反応を確かめている間に、私は呆然としたままで連れ出される。

 救急室の待合、そこには何らかの病気や怪我で運ばれた人達の家族や親戚の姿。皆一様にくらい顔をして天井や床をじっと見詰めて座っている。

 その中の、長いベンチシートに座って壁にもたれるダレ男を発見した。私は無意識に、そこにフラフラと歩いていく。

 ヤツが顔を上げて前髪の間から私を見た。私はすぐに目を逸らしてぱりぱりに乾いた唇でぼそっと言う。

「・・・桜、目がおかしいの。まだ意識がないようだし・・・それで・・・検査、だって・・・」