あ、ああ、と自分の口から声が漏れたのを遠くで聞いている気分だった。娘の体は痙攣している。顔がどんどん青ざめていく。あ・・・どうしたら、た、助けて。私、私はどう──────────

 桜、と何度も呼びかける。娘の痙攣は止まらない。どんどん青ざめる顔色に、私は自分も震える両手で彼女を落とさないようにと力を込める。

 どうしよう、誰か、誰か助けて。お、お母さん───────


「─────都」

 パニクってとにかくと娘を抱きしめるだけだった私の耳に、低い声が届いた。それは真っ直ぐに私の鼓膜を揺らし、一瞬で現実が私に戻る。

 パッと振り返ると、居間のドアの側に佇む夫の姿。

 いつものシンプルな格好に黒くて重そうなバッグをもって、ヤツが立っていた。

「─────あ、ああ・・・さ、くら、が!」

 私の見開いた目からぽろぽろと涙が落ちたのを感じた。相変わらず痙攣し続ける娘をぎゅうっと抱いたままで、私はヤツに向き直る。

「桜?」

 ヤツは前髪の下で怪訝な顔をして、鞄をその場に落としてスタスタと近寄る。そして動けない私の腕の桜を見つけると、眉間に皺を寄せて凄い力で奪い取った。

「あっ・・・!」

 涙で霞む視界の中、夫の大地は床に寝かせた桜の上に屈み込んで娘の体を横向きにさせ、上半身の服を緩める。それから顔を上げて、私を睨んだ。

「電話」

 え?私は呆然と彼を見詰める。・・で、電話?

 すると今まで聞いたことがないような大声で、ヤツが怒鳴った。

 私に向かって、ハッキリと。