まあ細かいこというと、置手紙みたいなものはあったのだ。
朝、台所に下りていくと、ダイニングのテーブルに、見覚えのあるヤツの細い文字が書かれた紙。うおっ!?と声を上げてしまった私は、あとで思い返しても可哀想だった。
だって、ほら、誕生日だし、会話もなかったけれど「おめでとう」の手紙かな~?なんて超ラブリーな期待をしてしまったのだ!仕方ないよね、ないわよね!?普通のことよね、その期待は!?
顔を見たらイライラするし、近くによりたくない。だけど、手紙にそんなことが書いてあったら嬉しいかもしれない!
だけど、そのシンプルでありきたり~な紙に面倒臭そう(そう見えたのだ)にかかれた文字は、こうだった。
『庭の一番端、椿が枯れてるの抜いておいた』
・・・・・・・・・・・・あ、はい、そうですか。
ちょっとばかりワクワクしてしまった私よ、アッデュー!夕日に向かって吼えたい気分だぜ。
だけど、心あらずの状態が続いていて、大切な椿が枯れてしまっていることにも気がつかなかったなんて!そういう意味でもショックを受けて、私は泣きそうになりながら庭への窓のカーテンをあける。
真夏の日差しを浴びている庭。そこの一番端っこ、昨日までは確かにあった小さな椿の植え込みがなくなっていた。
掘られた土の後が寒々しい。・・・あーあ。がっくりと肩を落としてカーテンを閉め、私は台所に戻ったのだった。さようなら、椿。そしてさようなら、私の誕生日。
あのチラシの裏のような紙であっても、誕生日おめでとうの一言が欲しかったと思うのは、ヤツとの生活にぬくぬくとしていた私の甘さなのだろう。



