今までは私しかいなかったのでアレコレ話しかけていたけれど、今は何かあれば全身の力で泣き叫ぶ赤ん坊がいるために、元々薄いヤツの存在感は今ではほぼ無くなっていた。え、誰かいる!?ってたまにぎょっとしてしまうくらいに、存在がない。深夜の授乳と夜泣きがあるからと私は娘と寝るので、仕事のあるヤツは別室で寝ている。それも原因の一部だろう。

 たまーに、ふと、気がつくのだ。・・・あら?そういえば、私って結婚してるのよね?って。シングルマザーじゃなかったわよね?って。ということは、夫と呼ばれる存在の人間がいるはずだけれど、その男はどこにいるの?って。

 ついさっきそれを改めて思い出し、カレンダーをみて指を折ってみた。

 ・・・もう、10日も話してないじゃん!!

 私は仰天して目玉が落ちるかってくらい目を見開いた。

 あらあら!ちょっと私ったら!って。その場では、大いに反省したのだ。だから、今晩はちゃんと起きていて、彼の帰りを待とうって、そう思ったのだった。

 だって、妻という望みまくった身分をくれた男でもあるわけだし。最近してなかった感謝をヤツにも込めるべきだと気がついたので、ね。

 だけどいざ、そうしてみると・・・・・イライラした。

 まず、泣いていた娘を抱っこしたままでウトウトしているところに、ヤツが帰宅した。私はその玄関の開く音でハッと目を覚ます。そして顔を上げると同時くらいに、ヤツがドアをあけて入ってきた。

「あ、お帰り~」

 片手で桜を抱いて片手で目を擦りながらそういう。申し訳ないが微笑みは勘弁してくれ、マジで眠いんだ。