first・きす

那奈星は少し前を悲しそうに歩いている颯太を小走りで追いかけた。


「那奈星ちゃ〜ん!」

誰かが那奈星の名前を呼んだ。

颯太もそれに気づき、2人はまた同時に
声がした方に振り向いた。

「山内那奈星ちゃんだよね〜?」

そう言いながら近づいてきたのは
3年E組とD組の先輩だった。

「そうですけど…」

少し怯えながら那奈星は返事をした。

「そんなにびびんないでよ〜
入学した時から知っててさ、3年の間で可愛いって有名で話してみたいって思ってたんだよ☆」

背が高くチャライ感じのイケメンがそう言った。

「うわ〜近くで見るとマジで可愛い!」
「まじだ!やべ〜!」
と那奈星を先輩達が囲んだ。

「あ、あの…」

那奈星はどうすることも出来ずにいた。

すると1人の先輩が
「うわーサラッサラだね〜♡」
と髪を触ってきた。

その瞬間颯太が那奈星の手を掴んだ。

「嫌がってんだろ!やめろよ!
那奈星、行くぞ!」


「あ!?1年が調子のンなよ!」
とゆう先輩の怒号を無視し、
教室まで走り続けた。







ハア…ハア…

「もう大丈夫か…
山内さん、大丈夫?」

「う、うんもう平気!

…あ、あの… 手が…」

逃げることに夢中で手を繋いでいるのに
気づかなかったのだ。

「 手? …ああ!!ごめん!!」

そういうとパッと手を離した。

無意識とはいえ、
那奈星は異性と手を繋いだことがなく、
颯太は好きな相手と手を繋げたことに
恥ずかしさを感じ、しばらくの無言が続いた。



…たえられない!

そう思い、颯太が声を張った。

「あ、あのさ!俺話全く聞いてなくてさ!
…なんか仕事あった?」

「あっ、うん!
名簿作成の仕事があるの!」

那奈星は、はっと思い出し、そう伝えた。

「ごめんな話ちゃんと聞いてなくて。
じゃあちゃちゃっと終わらせよーぜ!」

そう言い颯太はニコッと可愛らしい笑顔を見せた。

ドキッ…

「そ、そうだね!」

そう言い那奈星はシャーペンを握った。


教室にはシャーペンの音だけが響いた。










_____ 30分後_____






「…っし!こっち終わったぞ!」

そう言ったが返事がない。

「山内さん?」

颯太が那奈星の名前を呼ぶと、スースーと寝息が聞こえた。

「…はは、山内さん寝ちゃったのか笑
室内とはいえ11月だぞ〜風邪引くぞ〜」

と耳元で囁くと、うーーん…と唸った。

「ははっ、山内さんおもしろいな〜笑」
そう言うと、制服のブレザーを那奈星に掛けた。
「風邪引かれたら困るもんな…」

那奈星の寝顔を見ながら呟き、頭を軽くなでた。
「山内さん…」

颯太は我慢できず、寝ている那奈星に
顔を近づけた。

あと3cmというところで我に返った。

「…何してんだ俺…振られてんだぞ…」

そう言って那奈星が途中までやっていた
名簿をとり、書きはじめた。



____さらに10分後____





「…んっ」

…あれ?ナナ、寝ちゃってたんだ。


「あ、山内さん。おはよ!
ぐっすり寝てたね笑」

「高瀬くん…ごめんねナナ寝ちゃった」

「あはは、うん知ってる!
寝てる間に名簿作成終わらせといた!
もう外くらいし帰ろっか。」

「ごめんね色々と…
うん、帰ろう!」


そう言って那奈星と颯太は教室を後にした。