曰く、
2ヶ月前。
交際一周年!を記念してふたりで訪れた沖縄。
昼間は海水浴と南国色あふれる食事を満喫し夕暮れのビーチではふたりの未来を熱く語らい、前菜のようなキスを交わしたあと、オーシャンビューの部屋で暗がりに乗じ満を持してのフルコース!いただきまーす!と明奈のベッドに潜り込んだが早いか、
「いやあああああっ!!!」
窓も割れよとばかりの絶叫を浴びせられ、全身全霊でそれ以上の接触を拒否された。
実際、騒ぎに気づいたホテルのボーイや警備員が飛んできて、学生証を提示しなければもうすこしで地元警察へ連行されるところだった。
帰りの飛行機で交わした別れ話が、明奈との最後の語らいとなり、頬に残ったビンタのあとは、一週間ほど消えなかった。
それ以降失恋の傷心と気まずさのあまりサークルにも顔を出せずじまいで、明奈との交流は完全に絶たれてしまった。

「なるほど…人間の、とりわけ雄というものは、年中盛りがついている、厄介な動物ですものね。雄と雌の、交尾に関する意識の違いが、取り返しのつかない悲劇をもたらしたわけですね」
タマミ自身は普通に喋っているつもりなのだろうが、こっちはいちいちドギマギしてしまう。
「あのな、交尾だの盛りがつくだの、そういう表現はやめてくれ。人間にはな、単なる性欲とはべつの、愛という名の尊い感情があるんだよ」
タマミが大きな瞳を、さらに大きくしばたたいた。
「愛くらい、猫にだってわかります」
そう言うと、またしてもすばやい動作で飛びついてきて、俺の顔じゅうを温かい舌でぺろぺろと舐めまわしはじめた。
「うわ、ま、待って。おい、ちょっ、それは」
「これが愛です。愛と交尾は、まったく違うものです」
言いながら、タマミはざらざらした舌を首筋にまで滑らせてきた。
気持ちよすぎて困った。