「タマミは、恩返しに参りました。ハルキさんの、お役に立ちたいのです」
舌っ足らずの愛らしい声色ながら意外にしっかりしたタマミの喋りに癒されながら、俺はふむふむと頷き先を促した。
「けど恩返しって、俺そんな大したことしてない気がするんだけど。罠にかかった猫を助けてやったわけでなし、ただ道端にいた猫を連れ帰って夕飯食べさせたくらいで、恩返しなんかされちゃっていいの?」
依然俺のひざのうえでごろごろしながら、タマミは言う。
「わたしにもよくわからないのですが、恩返しモードに入るには一定の条件があるみたいです。わたしを拾って部屋へ連れ帰り、一晩泊めてくれること。それから、名前をつけてくれること」
「なるほどねー。でも、それだけ完璧に人間の女の子に化けられるのに、なんで猫耳がついてるわけ?」
「さあ、それは、わたしのほうでハルキさんにおたずねしたいくらいです。これまでの恩返しでは、猫耳つきの状態で変幻するパターンなんて、一度もありませんでしたもの」
「え、そうなの?好きなように変身できるわけじゃないの?」
「そもそも、これは変身ではないのです。わたしはいまもただの三毛猫。いまのわたしのこの姿は、ハルキさんが、わたし自身を含めた周囲の者に見せている、幻の化身です」
意味がわからない。いま俺が撫でているタマミの頭、髪の毛、首筋は、どれもまぎれもない、人間の少女の感触である。
「いま、わたしを愛撫しているハルキさんが指先で感じている女体の感触も、すべて共同幻想だということです」
よくわからないが、あどけない顔をして、なんという淫靡な言い回しをするのだ。
「おそらく、今の私の姿は、ハルキさんの理想を具現化したものなのでしょう」
いわれてみれば、顔立ちやタイプ的には確かに、元カノ明奈と重なる。が、手足がほそく痩せ型だった明奈より、この猫耳娘のほうが、なんつうかかなり肉感的である。童顔に猫耳、さらにアンバランスな魅力あふれる豊満な肢体…これが理想の姿って、とどのつまり俺は自覚こそないもののきわめてエロゲ的な二次元キャラに萌え萌えするムッツリ妄想オタっつーことですかああそうですか。
「で、ハルキさんの望みはどのようなことでしょうか?わたしにできることでしたら、なんなりとお言いつけください☆」
いま、それを聞くか…って落ち着け俺、相手は猫だ!