「この部屋に入った女はお前がはじめてだぞ」
センベイ布団のうえに比較的きれいなクッションをおいてやると、猫はすぐに心得た、とばかりにその上へ移動した。
拾ったときには毛がもさもさでよくわからなかったが、体をなでると意外に肉付きのよい体格をしていた。
「結構デブだな、お前。いーもん食ってたのかよ」
みゃお!
絶妙な間合いで抗議するような声を出す。言葉がわかってるみたいだ。
「俺は瀬川ハルキ。えーと、すぐそこの商店街を抜けた先にある、K大学の二年生。今年ハタチ」
言いながら、拾ってきた猫相手に生真面目に自己紹介している自分が恥ずかしくなってきた。
けどまあ、初対面って大事だからな、うん。
「お前にも名前つけてやんなきゃな。じゃあ…今から候補をあげてくから、気に入ったら、また、にゃおん、て鳴いてくれ。えと…三毛猫だからミケは?」
シンプルイズベスト。
……鳴かないな。ダメか。
「じゃあ、まるっこいから、マルは?」
……これも却下。
「みゃー、ってなくから、みーちゃんとか」
最後まで言い終わらないうちに、猫が退屈そうにあくびをした。
ダメか、ダメなのかー!
「あ、タマはどうだ!やっぱ日本の猫ならタマだよ!」
もうこれ以上思いつかない。
……猫、ガン無視。布団の上にのびていたゲーム機のコードを引っ張ってあそびはじめた。
「タマや、ほら、こっちおいでー」
もうこちらを見ようともしない。ふてぶてしいアマめ!
「えー…ハルキの猫、ってことで、タマキ…」
フッ、これは自粛しておくとしよう。
「女の子だもんな…タマ子、タマ代…タマミでどーだ!」
気まぐれ娘が振り返り、わが意を得たりとひと声鳴いた。
「にゃおん」