土日は休みたいので、土曜日の講義は一限しか入れていなかったが、タマミが学生のふりをして大学に潜入したい、というので早起きして付き合うことにした。さすがに、一人(一匹?)でいかせるのは危険すぎる。
デフォルトの奇抜ファッションではあまりに目立つので、商店街内でも比較的若者向け洋品店のセール品ばかり、総額2200円(これでも家賃を払った直後だけに痛い出費だ)ほどで地味めの衣装を揃えてやった。猫耳は、バンダナを巻いて隠し、百均で買った度の入っていないメガネをかけさせる。

「すごい!完璧ですね。勤勉な女子大生に見えます」
「これならまあ、大丈夫だな」
「うまい具合に、明奈さんがいればいいのですが」
「明奈は真面目なほうだからサボリはしないと思うけど…」
俺は部屋の隅に積んである大学関連のノートやプリントの山を探り、一枚のコピー用紙を広げた。
「なんですか、それ?」
「明奈の履修登録表。えーと土曜日は…2コマ目しか出てないな。文化人類学…」
表の○印を指で確認しながらうなずく俺を、タマミは感嘆した様子で眺めていた。
「ハルキさん、なんて健気…なんて見上げたストーキング魂!」
「人聞き悪いことゆーな!履修登録提出した四月の時点ではまだ付き合ってたんだよ!学年違うから、せめて自由選択の講義だけでも一緒に出ようってな。別れたのはその直後、悪夢のゴールデンウイークだ」
「そうなんですか…でも、一年ちかく交際していてくちづけしか許さないなんて、明奈さんは貞潔な女性なのですね」
「かもしれないけど、フツーなら旅行OKした時点で、同意したも同然だと思うよなー。旅行にいく前から、明らかに緊張してる雰囲気だったし…」
「緊張?」
「うん。空港でもやたらまわりを気にしてるような、落ち着かないそぶりでさ。飛行機のなかでも、話しかけてもずっと上の空、ってかんじで…」
タマミはしばらく何かに思いをめぐらせている様子だったが、やがてここで考えてもらちがあかないというように、かぶりをふって立ち上がった。
「とりあえず大学へいきましょう」