気を取り直して、「恩返しモード」のシステム詳細について、タマミにたずねることにした。
「まあ、そう大したことはできないのですが…」
タマミはなぜか恥じらいながら話しはじめた。
「猫の姿で行動する場合の利点としましては、部屋の窓や最寄りの建物の屋根などから、対象を観察することができます。場合によっては、対象の部屋のなかへ侵入することも、それほど難しくはありません」
「え、ちょっと待って、猫の姿にもどれるの?」
「戻ると言うよりは、それが本来の姿ですから、ハルキさんのそばを離れれば、わたしはもとの三毛猫のままなわけです」
「あ、そうなの?そうか…」
タマミの今の姿は、俺の妄想力で構築されている、という話だったよな。
「ええ。ですから恩返しの間は、ハルキさんの協力がありさえすれば、わたしは猫と人間の少女と、二つの姿で行動できるということです。でも、魔法が使えるとか、そういう特技はありませんので、結局綿密な作戦を立てて挑むしかないですね」
「なるほど。よくわかった」
しかし、それだと、クラスメートの女の子に応援を頼むのと大差ない気もする。せいぜい1・5人力、程度の心強さ。
待てよ、たとえば猫の利点を駆使すれば、無垢な瞳の愛らしさで明奈に取り入り、彼女の飼い猫になることも可能なんじゃないか。
そうなればさっきみたいに膝のうえでゴロゴロ甘えたり、顔や手足を舐めまわしちゃっても殴られたりしないどころか、
「もうっ☆ハルキったら甘えんぼさん!」
なんて、鼻先をツンツンしてもらえたり…。ヤバい、いっそ俺が猫になりたいかも…なんてな。
気づくとタマミが、俺の頭のなかを見透かしたような、猫そのものなまんまるい目をこちらへ向けていた。怖いって。