「けどさ、」


そしてあたしの目をのぞき込むように。
今度は真剣な顔をしてじっと見てくる。


「ずっと前から——…もうずっと忘れられない人がいるんだ。じつは」

「……」

「気になる?」

「ちょっとだけ」

「じゃあ言わない」

「え!? そこまで言ったのに?」


すると杉本はあたしのほっぺたをつまんで、少し口を尖らせた。そしてどこか意味ありげな顔をして、あたしを見て楽しげに笑っている。


「なんかムカツク」

「でも言わないし」


あたしよりひとつ下の段に立っている杉本のご機嫌な顔。

こんなに息がかかるほど向き合った目の前にある杉本の顔って、はじめて見るかもしれない。

なんか胸が苦しい。ドキドキしてしまう。


「いずれわかるからいいじゃん」

「——意味わかんない」

「あ、また怒ってる?」


なんだかわけがわからない。
だけど杉本は楽しそうにしている。


「ねぇ…、杉本」

「ん?」

「バカ」


"お前の方が意味わかんねー"と言いながら、杉本は目に涙を溜めて楽しそうに笑う。


「なんなの?」

「ひみつ」


だけど、いいか。
杉本の顔を見ながらそう思った。