私はあの後、蓮先輩たちに続いて玲弥先輩の病室に着いた。


いざ玲弥先輩の病室前に来ると、罪悪感でとても苦しくなる。

…でも、それと同時に玲弥先輩の顔を今すぐに見たい気持もあって…

私の頭の中を複雑な思いがぐるぐると回り続けていた。


「…春馬ちゃんは入らないの?」

私が急にドアの前で立ち止まったのを見て不思議に思ったのか、蓮先輩が気を使ってくれたみたいだ。

「…あ、は、入ります!」

私はこのまま蓮先輩に気を使わせるのも嫌だから、無理やり元気な振りをしてドアの中へ入る。

「…気にしないでいいからね?
春馬ちゃんは悪くないんだから。」

(玲弥先輩の事を私のせいだと思ってたのがバレてたの?)

私は蓮先輩の言葉に驚き、振り返る。

「…やっぱり、
そんな事だと思った…玲弥は君に謝られるより感謝された方が喜ぶと思うよ?」

と、蓮先輩は私に優しく笑いかけてくれた。

「…でも、私が忘れ物しなかったら…」

「いつかこの事件は起こるはずだったんだ…それに、君がいなくても、誰かが人質にされてたと思うから。」

「…え?…それって…」

「…そう、虎太郎は玲弥が誰でも人質があれば助けに行くようなお人好しなのを知っていたんだ…

その時に、君がちょうど現れて玲弥と仲が良かった…」

「…なるほど、それで虎太郎が誰でもよかった所を、玲弥先輩と仲のいい私を拉致して人質にしたのか。」


「…うん、
だから君は気にしなくていいんだ。
それに、君のおかげで玲弥も無事ですんだし…君はもう気にしなくていいよ。」


「…はい!
…あと、蓮先輩も私を助けに来てくれてありがとうございました!!」

蓮先輩にまだお礼を言ってなかったのを思い出し、私は今度は心からの笑顔でお礼をした。

「…どういたしまして、ほら玲弥の所に行きなよ!」

「…はい。」

玲弥先輩はまだ寝てるけど今の顔はいくらか穏やかになっている。


(…玲弥先輩、ありがとうございました)

心の中でお礼を言って蓮を見ると、顔は傷だらけで痛々しくて…

「…あ、れ?」

気づいた頃にはもう遅くて…

私の目からポロポロと大粒の涙が流れでてきていた。


「…う、…春馬?」




「…わ、若旦那!?」

組の人たちが喜びの声を上げる。

「…玲弥、先輩…。」

私は涙でぼやけてて玲弥先輩の顔も見たくても、よく見えない。


「…なに?…お前、泣いてんの?」

まだ目が覚めたばかりでふわりと笑う玲弥先輩…

それを見たら…尚更涙が溢れてきて…

「…はは、お前の顔、くしゃくしゃじゃねえかよ。」


「…これでも抑えようと頑張ってるんですぅー!」

私は泣き声で玲弥先輩にいつも通りの反抗を試みるが弱々しい。

「…ありがとうな。」

玲弥先輩の照れた声がして、頭を優しく撫でられる…

…玲弥先輩の大きな手で。

「…えっ…そんな、お礼言うのは私の方です!…ありがとうございます!」

急な玲弥先輩の頭撫でに驚く暇もなく、私もお礼を言うと、急に恥ずかしくなり顔が熱くなった。

そのおかげで私の涙も止まり始めてきたみたい。

気づいた頃には病室で私と玲弥先輩の2人きり…


(…みんないない?…いつの間に…?)

蓮先輩とその他大勢は勝手に気を利かせていたようだ。

「…お前、ケガは…大丈夫か?
その手…」

玲弥先輩は私の包帯ぐるぐる巻の右手を見て言っているようだ。

「…あ、大丈夫ですよ!
玲弥先輩の怪我に比べたら全っ然!…」

「…ほんとに、お前って…変わってる。」


「…なっ!…そんな言い切らなくても…」

「…そこがお前のいい所ってことだよ。」

「…へ??」

私は意味がわからずポカンとしてしまう。



「…ほんと、お前って可愛いやつ。」

「…なっ!!…そんな事ない…です。」

私の顔はさらに熱を持ち、

チラリと玲弥先輩を見るとまた、あの時の様な熱く熱を持った視線…

「…すまん、もぉむり。」

私は急に腕を掴まれて引っ張られる…


ハグ…ではない…

デコにコツン…と、何かがあたる…


恐る恐る目を開けると…

玲弥先輩の顔が……目の前に!?

「…ひゃぁぁぁ!」

私の口からありえない声…
というか、とても小さな悲鳴…


「…フッ…目、瞑っとけ…」

「…は、はい…」


私は目を瞑った…


しばらくして私の唇に、柔らかな感触がした…


(…こ、ここ、これって…!?)

そう思った瞬間、私の心拍数は急上昇!

「…んっ!!!」

私は驚きのあまり目を開けてしまって…

玲弥先輩に口を塞がれたまま、驚きの声を上げてしまった。

二人の口が離れて、私は玲弥先輩と目が合う…

「…バカ、こっち見んなよ。」

玲弥先輩がそっぽを向く…

彼のほっぺも真っ赤だ。


2人とも、しばらくの無言…

「…あ、あのぉ…こ、これは…。」

「…わかをねえのかよ。この鈍感。」

「…そんなの…くちでいわれないとわかんないです。」


「……。」

玲弥先輩が伝えたいこともわかる…

事実。キスもしてるし…
そういうことなんだろうけど…

だけど…
勝手に決めつけて違ったら…

などと、私の心の中では自問自答が繰り広げられてる。


「…お前が好きだ。」

玲弥先輩も私も真っ赤になり、私の心臓はもう破裂寸前!!

「…わ、わわ、私、も、す、好き!!」

「……よかった…」


玲弥先輩が笑い、私もつられて笑う。


それを病室のドアに聞き耳を立てて聞いていたその他野次馬(…蓮先輩、または組の人たち)は2人の恋愛成就をバレないように密かに喜んでいた。