そして私は見送ると重大なことに気付いた。
「…あ、名前聞いてない!学年は…三年生かな?」
彼の上靴の色が緑だったから多分そうだと思う。
「……どうしよう、パーカー。」
彼の貸してくれた大きなパーカーはダボダボで、袖も有り余っている。

「……はぁー。」
私は、彼にパーカーを借りたことだけでもとても申し訳ないのに、さらに名前を聞かずじまいのせいでパーカーを返すのも遅れてしまうなんて最低だ。

とりあえず水やりも終えたから帰ることにして、校門の方へと歩いていく。

私は帰り道中はびしょ濡れだからか、人目をすごく感じた。
なんせ急なことだから着替えもないのでしょうがない。

家は最寄りの駅を降りて徒歩15分ほどで着く位置にある。

空には真っ赤な夕陽が輝きを放ち、燃えているようだった。夏を目前に控えているからか気温は高く、びしょ濡れの私の制服が蒸されてとても暑い。

私の額からは汗が滝のように溢れてきて止まらない。
最寄りの駅を降りた私は、そそくさと家までの道のりを歩く。
近所の奥さんは私のこのびしょ濡れ姿をみて、「…どうしたの!!春馬ちゃんたら水浸しじゃないの!」と、イジメを受けたのかと勘違いされてしまった。

なんとか誤解を解いて、家に帰る。
もう花屋の営業を終えた優しい母が夕飯の支度をしていた。
すると母も私のこの姿を見て、顔を青くさせた。
「いや、お母さん!イジメとかじゃないから、たまたま水やりで被っちゃっただけだからね。」
私は母を手で制しながら早口に言う。
母はそれを聞くとホッとして笑顔になった。
「…びっくりしたわぁ、心臓出るかと思った!」母はにこやかにそう言って夕飯の支度に戻る。


どうしてなのか、今日は騒がしい1日でまだなにかありそうな気がする。
私はそんなモヤモヤとした気持ちで二階の自室へと上がっていく。


「…あ、おかえり!」弟の小鳥遊 悠(タカナシ ユウ)が自分の部屋から顔を覗かせた。

兄の悠は私よりも歳は3つ上で今は大学生で二十歳だ。私とは顔は似ていないけれど父と似てシャープな顔つきで背も高い、大学ではさぞかしモテるだろうと思う。

一方私は父と母を混ぜて二で割った感じの顔だから父のように、少しつり目気味だからあまり好きではない。

母は綺麗な顔だからいいと思う、というが母はとても綺麗で童顔だから母に似ていたら絶対可愛くなれたのにと思う。

悠が優しいから兄妹で喧嘩はあまりしないけれど、いつも笑顔のせいかあまり本音がわからない。
それに怒る時まで笑顔となると、悠とは喧嘩だなんて怖くて出来やしない。


「…どしたの?そんな浮かない顔して、
それより、ハル水浸し!」
悠は私の制服をみて驚いて切れ長な目を見開いた。

「…あはは、ちょっと水やりで被っちゃってねえー。」
この会話は3回目だ。
「…ぶっ!! お前のドジは相変わらずだなぁ…風邪ひくなよ」
悠は私を茶化すくせに最後には心配してくれるから、ドジだとバカにされても怒れない。
「ほーい…ってか私はそんなドジじゃないからね?」最後に私のドジ疑惑を否定して自室のドアに手をかける。
「…どーかな?俺の目にはそう見えるけどなぁ。」
ニヤリとイタズラっ子のように笑う悠、こういうときに悠はいじわるになるから絶対に悠はSだと思う。
「…もうどっちでもいいよー。」
そう言ってから私は頬を膨らませて悠を横目に睨む。
「…そんな睨むなよぉ、ごめんって!」
悠はヘラヘラしながら拝むように手を合わせてペコペコし出した。

「…ま、そんなに怒ってないから謝んなくていいよ!」
私も睨み顔を解いて笑顔になる。

「…そんじゃ着替えるから」
そうして自分の部屋に戻ってからまず制服を脱いでカーペットが濡れないようにまとめた後に部屋着のtシャツとジャージに着替えて制服と借りたパーカーを洗濯機に入れて早速回す。

「…さて、と、パーカー、はどうにかするとして…。」

私は洗濯機の前で今日の水かけ事件のことを思い出す。
あの人は私のせいで水浸しになってしまってとても申し訳ない。パーカーまでかりてしまったし、ちょっとしたプレゼントくらいはしようと思う。

私は何がいいだろうか、とまた考え込んでいた。
あまり混んだプレゼントは逆効果だし、むしろ遠慮されてしまう、ならは、私の得意なお菓子をプレゼントしようと思ったとき、
「…ハル!なにしてんの?」
悠が後ろから急に肩を叩いて来たから私は飛びあがる。

「…びっくりしたぁー。何って濡れた制服を洗濯してるけど?」
私はそう言って悠の方を向く。
「…さては、好きな男の子でもできたのか?」
悠はニヤニヤしながら言ってきた。

「…ただボーッとしてただけ!」
悠の変な誤解を全力で否定した。