そうして暑い中、黄緑から黄色へと変色した梅の実を次々と袋に放り込んでいくと、下半分だけで1袋と少し、と大量に取れた。

この中からまた綺麗なのを選別するからこれだけあったらいいけど…
毎年先生方にも配るのと、文化祭用を作るため、まだまだ必要だ。

「…あとは、上か。」


私の背丈は微妙な高さだから上まで手が届かない。なので、近くにあった古いパイプ椅子を使って足りない高さを補っている。

グラグラしてるから少し怖いけど…
そんなこんなで梅の実の収穫は進んでいった。

あとは、ぎりぎり届くとこの実を取るだけだ。
「…も、もうちょい…!!」

私は必死に腕を伸ばして梅の実を掴もうと頑張る。

「…く、あ、と、少しー!…よし、」

やっとの事でとることのできた実を持って上げていたかかとを落とした。


そのとき、ボロボロのパイプ椅子は限界を迎えた!

「…わぁ!!」
崩れたパイプ椅子が傾き、私は地面に尻餅をついた。

「…いっったぁー!」

私はおしりに激痛が襲いかかり、座ってられずに四つん這いの体制になる。


「…なんだ?……梅の実、散らばってるけど…大丈夫か?」


「…大丈夫じゃないです。椅子壊れました!…梅の実が…」

私はハイハイをして梅を袋にもう一度放り込んでいく。
途方に暮れる量だ。

「…いや、梅の実じゃなくて、お前だ。」

レイヤ先輩は起き上がるとそそくさと駆け寄って来た。

「…え?私は大丈夫ですよ?
ただ、尻もちついただけですから!」


私はそう言って恥ずかしいのを笑いで誤魔化した。

「足はひねったりしてないか?」

「…はい、大丈夫です!」

レイヤ先輩に落ち着いてもらうためになんともないふりをした。

「…ほんとかよ…。ってか、そんなに梅の実取って何作るんだよ。」

先輩は安心したようで一緒に散らばっている梅の実を回収してくれた。

「…これはですね!梅のシロップを半分で作って、先生方や部活の人に配りまして、あとの半分は梅干しにして、文化祭で販売します!結構いけますよ?うちの梅干し!」

私はよくぞ聞いてくれた、とばかりに目を輝かせて梅の実の魅力をマシンガン並のスピードで語ってしまった。

「……梅のこと好きなんだな、お前、」

一緒間があったものの、レイヤ先輩は普通の反応だ。

「…あのぉ、驚かないんですか?」

私のこの植物オタクっぷりを見て全く動じないのも逆に戸惑う。


「…べつに、ってか、俺のクラスにはそんな奴ばっかだから慣れてる。」

「…あ、そっか!」
充分すぎるほど納得出来る理由だ。


レイヤ先輩はあの天才クラスなんだし、私みたい、というか、私より何倍も上のマニアがたくさんいるわけだから私の植物オタクはまだ普通のレベルだろう。

「…よかった!そんな反応してくれるのは凛とレイヤ先輩ぐらいですよ!」
私はホッとして笑顔になった。

「…ッ!…お前、」
先輩が素早く顔を背ける。
何故か顔が赤い。

「…??」
意味がわからず私は首をかしげた。

「…ほら、さっさと梅の実集めるぞ!」
レイヤ先輩は教えてくれなかった。

「…気になる…」

私はレイヤ先輩に聞こえないほどの小さな声でつぶやく。

「…は?なんか言ったか?」

レイヤ先輩がいかにも不機嫌に言う。

「…なんもないです!!」

(聞こえてたんかい!)
私は心の中で叫んで、梅の実集めを再開した。

その後梅の実は無事回収し終わると、私は上の方の実をとるために脚立を取りに行こうとした。


「…そんじゃ私、脚立とってきますね!」

「…は?お前一人でか?」

「…はい、そうですよ?いけますから先輩は寝てていいですよ!」

私はこれ以上レイヤ先輩に迷惑をかけないように走ろうと急いだが…
急に腕が掴まれてぐん、と後ろにひっぱられた。

「まて…手伝う。」
レイヤ先輩が私の腕を掴んだままそう言った。

…相変わらず面倒そうな感じを装っているけど。
私が転んだことを心配してくれてるのだろう…
私はなんだか、心がむずムズして照れくさくなる。

「…いいんですか!?…でも、脚立は?」

(私なにドキドキしてんのよ!平静に!)
そう自分の心で叫び、平静を装った。

「お前な、俺の背丈見てそれ言ってんのか?俺はそんなのなくても届く。」

そう言ってレイヤ先輩が私の頭をガシガシとめちゃくちゃにする。

「わっ!?…何すんですかー!って、痛い痛い!」
レイヤ先輩がそれを容赦なく力を入れてするもんだから痛くてたまらない。
レイヤ先輩はようやく私の頭から手を離すと、

「手伝うから俺にも梅シロップくれよ?」
「もちろんです!…でも、私脚立ないと取れないです。」
「…そうだな!お前小さいからなー。
…ま、俺がやるからいいよ。」

「…申し訳ない…やっぱとってきます!」
「だから、いいって!…じゃあゴローの守りを頼む…。」

レイヤ先輩はまた走り出そうとした私を引き止めて三毛猫のゴローを抱っこして私に手渡す。


「……え?だからっ「ストップ!…いいから休んでろ。俺がやる。」

私はいいかけた言葉をさえぎられて玲弥先輩に言われるままベンチに座ったのだった。


(それにしても、なんであの前髪切らないのかな?)
私はゴローをなでながら玲弥先輩が梅の実を積む様子を眺めつつそんなことを考えてる。

(…あの雨の日にみた顔はとても綺麗に整ってたし、あの前髪で隠しちゃもったいないよなー。)

「…おい、終わった…これ全部どーすんの。」
玲弥先輩が三つの大きくてとても重い梅の実の袋を軽々と持ち上げている。

「…あ、私が持って帰りますよ!」
私はゴローをベンチに下ろして玲弥先輩に駆け寄ると袋に手を伸ばす。

「…あ、…ちょっと!!」
手を伸ばしたそばから私から逃げる袋。


玲弥先輩が私が取れないようにイタズラしているのだ。
「…プッ!!…お前、トロいな…。」
「…ちょっと玲弥先輩!?
意地悪しないでくださいよ!」

玲弥先輩は私があたふたしてるのを絶対に面白がってる。

「…ふぅ、いい加減にしてくださいよ!」
私はいつまでも渡してくれない玲弥先輩を睨んでみる。

「…やだ、渡さねえ。」
そう言ってにやりと口角を上げると、走り出した!
「…な!?」
私はすぐに追いかけるがつまずいてしまって玲弥先輩に追いつかず。

「…ぎゃ!」
私は地面に突っ伏す形にこけた。


「…わ、お前ってとんでもなくドジなんだな…」
先輩は梅の実の袋をベンチに置いてくれたみたいだが…

「…玲弥先輩が意地悪するからです!
…だけど、梅の実はありがとうございます…助かりました…」

私は少し不服だが、玲弥先輩には梅の実の収穫に、最後にはベンチまで運んでもらえたことには素直に感謝する。

(意地悪されてこけたのはひどいけど!)

「…ごめんな、やり過ぎた…
ほら、手貸せよ。」

楽しそうに声を弾ませた玲弥先輩が私に手を伸ばす。

「…ま、いいですけどね。」

私は今度やり返す決意を固めて許す事にした。