「…あ、パーカー!ありがとうございました!」
そして、私は先輩に少しだけ雨で濡れた紙袋を差し出す。

「…あ、そういえば、貸してたな。」
「…忘れてたんですか?」
「…あぁ、悪いか?」
悪くは無い、だけど、なんというかーそんな前のことでもないのに忘れるなんて

「…無関心なんですね…」
つい、本音を口にする。
「…お前、さっきからバカにしてるなー」
先輩はこれまた無関心にそう言った。
「バカにはしてないですよ。ただ感想をのべただけです!」

私はそう言ってるけど先輩は信じてくれない。
「…ま、いいけど、」

そう言ってニカッと笑うと、パーカーを受け取ってくれた。
やっと渡せたことで私はほっとした。

「…なあ、お前のいつも通う花壇らへん、俺も使っていいか?」

「??別に全然OKですけど、どうして許可とるんですか?」
「…いや、なんかお前の手入れしているとこ居心地いいし、お前の許可取らねえとかな、と思ってな…」
初めて私の手入れしている花壇を褒められた。
他の園芸部員すら褒めてくれないのに、この先輩は気がついてくれた。
私の胸になんだか暖かいものが染み渡って行くきがした。


「…ありがとうございます…!」
私は自然とお礼を口にしていた。

「…??どうして?俺は何もしてないけど」

「…先輩はほんとに…」
私はなんだか先輩が意地悪な人から優しい人に見え始めていた。

だけどなんだか恥ずかしくて、優しいと言いかけてやめた。
先輩は口は悪くても結局優しい、だから本当はとても優しい人なんだと思う。

「…ほんとに、の続きは何だよ」

先輩は私のいいかけた言葉を問い詰めて来る…でも、
「…やっぱりなんもないです。」
私はそう言って先輩に笑顔をみせた。
「…何だよ、気になるじゃねえかよ…」
そう言って先輩はそっぽを向いた。
気のせいかな、少しだけ先輩の頬が赤い気がする。
(ま、気のせいだろうけど。)
そう心の中で切り替えると、私と先輩の会話が途切れる。


そして無言のまま歩くこと数分後、
(…やばい!なんか、話題……わからないよー。)

必死に考えて出て来た話題は…
「…先輩、あの三毛猫ちゃんと仲いいみたいですけど…名前なんですか?」

「…名前?そんなのつけてねえし、そのままで、猫、だろ?」
「…もはや三毛猫とも呼ばないんですか!?…ミケ、とか、みっちゃんとか…」
私は先輩のズボラな呼びかたに驚き、私が試した呼びかたを例に出した。

「…お前はなんてよんでるわけ?」
先輩はいつもの寝ぼけ顔で尋ねる。
「…うーん、特に決まってないです、
私的にはミっちゃんとかですかね?」

そう言うと、先輩は笑い出した。
「…お前、あの三毛猫の性別わかってないだろ…」
「…??あんなに可愛いからメスじゃないですか?」
「…オスだよ。だからそんな可愛らしい呼び方はやめてあげろ…」
先輩はまだ笑う。
しかし、私は今までメスだと思い込んでいたからとても驚いた。
「…それじゃぁ、これはどうです?
ミケ太郎、ミケ、みっくん、とか、良くないですか?」
「…あまりさっきとかわらねえな。
アイツは撫でるとゴロゴロ言うからゴローマルでいいだろ。どうだ?」
「…それもそれでなんだか違う気がするんですけど…ま、いいやそんじゃゴロー、でどうですか?」

「…いいんじゃないか?」
先輩は三毛猫の名前決めも思っていたよりも楽しそうで、あっという間に駅に着いた。

「そんじゃあまたな。あと、傘ありがとな。」

そう言って先輩は私より一つ先の電車に乗る。

「…はい、失礼します。」
なんだか寂しくなったけど、明日も花壇に来ると言ってたからまた会えるし、先輩とまた話せるのはとても楽しみだ。

先輩を乗せた電車が進み出し、先輩はあっという間に見えなくなる。

しかし、先輩は少しだけ変わった人だけど避けられるのはどうしてなのか全くわからずじまいだ。

いくらヤクザでも、先輩は紛れもなく優しいし、三男だから別に家を継ぐわけでは無い、と本人も言っていた。
蓮先輩はいい人だし、昔から仲良しっぽい…

私は他の人はどうして玲弥先輩を避けるのかを探ろうと思った。