夏休みを目前に控えている七月中旬、夏の蒸されるようなあつさもあって、みんな授業に集中出来ずにいた。

私もその中の1人で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
私は高校二年生の小鳥遊 春馬(タカナシ ハルマ)
随分と男らしい名前だ。

しかし、家は駅前の花屋さん、その影響もあって部活は園芸部だし、名前以外は女の子らしいと自分でも思ったりする。

すると、隣の席の親友の橋本 凛が私の肩を軽く叩いた。
「…なに?」
凛は私と目が合うとニッコリと笑い、小さなメモ紙を渡してきた。

「…笹倉くんから!」凛は小さな声で今にも笑いそうになりながら言った。

「…はあ、面倒くさいなぁ。」
最近やたらと話しかけてくるし、こうやって授業中にも手紙をまわしてくるので少しだけだるくなってきている。

メモを開くと中には「よかったら夏休みに映画でも行こうよ!」と書いてある。

夏休みは宿題もあるし、家の手伝い(店番など)もあるから何かと忙しい。
これを理由に断る内容をメモに書く。

するとその様子を見ていた凛が、
「…笹倉くん結構かっこいいのになぁーハルったら面食いなんだから。」
ぷっくりと頬を膨らませてこちらをじっとりと睨む。

「…そお?私はあいつがタラシにしか見えないね。」
私は鼻をふん、と言わせて自信あり気な様子で言った。
私は笹倉くんとは中学校からの仲だけど見る感じではコロコロと女の子が変わっていたから恐らく女たらしだろう。
凛も中学校では一緒だったから知っているはずだ。

「…デートくらい行ったら?以外といいやつかもよ?」

「…ない、絶対に、ない。」
私は凛の言葉を速攻否定して首をブンブン左右に振る。

「はるってガードはガチガチな上にハードル高いからねえ、こりゃあ男も苦労するよね」
凛はやれやれという感じで笑う。
そういう凛はとてもモテるからたくさんの男を振っているし恋愛経験も豊富だ。

それに対して私は今までに彼氏がいたこともなく、恋というものもよくわからない。

そして笹倉くんへの返事を凛に回してもらうと、笹倉くんは少しだけ悲しそうにしてまたメモに何かを書き出す。

「…まだあるの?」
私は深いため息をついてうなだれた。
私は凛のように可愛くないし、目立ちもしない。だから笹倉くんみたいなタラシに目をつけられたのか、本当にいい迷惑である。

また笹倉くんの手紙が私の元へまわってくる。回って来た手紙には、「そっか、そんじゃまた今度遊ぼうな!」そうかいてあった。私は心の中で「…その今度は一生ないけどね。」と考えた。
すると授業の終了を知らせるチャイムがなり、学級委員の古賀君が号令をかけて礼をした。
次は昼休みのため売店の人達が一斉に駆け出していく。
私と凛はいつもの場所の中庭でご飯を食べに行き、凛がサッカー部のマネージャーの準備に行くのを見送ってから教室に戻る。
そして今は昼ごはんを2人で仲良く世間話をしながら食べていた。


「…笹倉くん、こんなに断られてもアタックできるなんてすごいと思うけどなぁー。」そんな私に凛が呆れていった。

「……私は恋とかに興味無いんだもん、それなのに付き合ったらあいてにわるいじゃん。」

私は今まで思っていた笹倉くんとのデートを断る理由を話した。

彼はタラシ君だけどイイヤツだし、嫌いではない。

だけど、それが恋になるのかと言われれば違っていて、気もないのにデートするのは申し訳なく思っていたのだ。


それを聞いた凛はポカンとした顔で、私をじっと見つめきて、急に頭をガシガシとなでてきた。
「はるってば!尊敬するよ!!なんて人思いのいい子なの!?」私は凛の急な変わりように戸惑う。

「…!?ど、どうしてそうなるの!私は普通のこと言っただけじゃん!」
私は凛の手を抑えて聞き返す。
「…普通は流されちゃうからね!笹倉くんくらいのかっこいい男にこんだけ猛アタックされたら。」
凛は私から離れて力説し出した、凛は持ち前の美しさと性格の明るさで、いつも男がよってくるから女の子達に嫌われやすいし、よってくる分変な人も多い。


だからたくさんの付き合いの中で嫌な男もいたからだけど、恋愛に関しては一流だ。

「…それにハルは自覚してないようだけどあんたはかわいいから!…裏ではハルの事を好きなやつもゴロゴロいるんだからね?きおつけなよ?」凛はしまいにこんなことをおお真面目に言う。


「……??」混乱する私をみて凛は諦めたのか、ため息をついた。
「…ま、いいや、とりあえずハルは真面目でかわいいよ!笹倉くんは置いといて、さ、まハルはいい人か現れるさ!」
凛は元気よくそう言って立ち上がる。


そうしてしばらく2人で雑談を交わしてから、いつもどうり解散して別行動をして一日を終えた。
そして園芸部の花の手入れをして帰るのが普段どおりの1日、そのはずだったのだけど、今日は少しだけ違っていた。

私は園芸部、凛はサッカー部のマネージャーとで別れる。

放課後の人のいない中庭は風が吹いて木の葉がサワサワと心地よい音を奏でていた。

私は大きな伸びをしてから園芸部の植物達に水をあげるためのホースを取りに行く。


私の所属する園芸部は5人、主に活動しているのは私だけ、ほかの4人は野菜が欲しいから収穫の時だけくる、とかだから部活としてはあまり知られていない。

今日だって、水やりしに来たのは私だけだ、私がいなかったらこの植物達はとんでもなく可愛そうな事になる。
だから私は方っておけなくていつも水やりや、悪くなった葉っぱの手入れをしに来ている。

そしてホースを蛇口にはめてから水やりを開始する。


今植えているのは、壁際にゴーヤ、園芸でメジャーなトマト、
それに加えてカワラナデシコこれは赤や白、ピンクなどのかわいい色と形でよく見かける。

あともう一つは金魚草、たくさんの彩りがあって可愛らしい。
その隣にはケイトウ、見た目がふわふわしていてしっぽみたいな感じの植物だ。

そして花壇のまわりにはたくさんのクローバー達、白い花が遊び心をくすぐる。

私はそんな植物達に水やりをしながら心を落ち着かせていく。


そして最後には、たくましく育っている梅の木、今は青々としているが、もう少しして実が黄色くなり始める頃に収穫をしてシロップを作る。

それをソーダ割りにすると格別に美味しいから、毎年楽しみにしている。

花壇の花たちは終わったから梅の木に水やりをしようとホースを伸ばし、持ってるとこに圧をかけて水の勢いを強める。

水が梅の木まで届いた時だ、
「…うわぁ!?つ、冷た!!」
大きな声が梅の木から聞こえたから、驚いた私はホースを取り落とす。

すると、ホースは地面に落ちる時に私の方に向いてしまい、盛大に水を被ってしまった。

「…わ!冷た!!」
私も先ほどの声と同じリアクションをとった。

「……せっかく気持ちよく寝てたのに。」
男の人の声がそう言って梅の木周辺の草がガサガサと音を立てる。

その人は梅の木の前からのっそりと立ち上がる。私がかけてしまった水で頭から前身ずぶ濡れだった。

彼の私を見る顔はぶすくれていて、申しわけない気持ちが押し寄せてくる。
「…す、すいませんでした!!
まさか…人がいるなんて思わなくて。」
私も肩から下はずぶ濡れだし、人に水ぶっかけるし最悪だ。

「まぁ…わかんなかったならしょうがねえしな…あとさ、お前服…」
彼が頭を書きながら私の方に歩み寄る。
「…水浸しだけど…」
私は自分のことを見下ろして初めて自分のシャツに下着が透けていたのに気づいて顔が熱くなる。
「…!?わっ!」
そう叫ぶなり恥ずかしさのあまり彼に背を向けてしゃがんだ。

「…それじゃ大変だろ、これやる。」
無愛想にそういって自分のパーカーを脱いで私に被せてくれた。

「…あ、ありがとうございます!」
私はパーカーを渡して、そのまま歩いていく先輩の背中に礼を言った。

先輩は私の声を聞いてから右手をあげて軽くふってさっていこうとした。