「あなた、旅はいいの?」


「うーん、旅って言っても気ままなものだしねぇ」



のほほんとしているこいつに不法侵入者で犯罪者である自覚はあるのか。いや、ないんだろうな。この数日の付き合いで実は物事をそんなに深く考えないマイペースな人物であることはよくわかった。



「君は?今日は何してたの?」


「いつもと同じことよ。引きこもってたわ」



外に出ると監視ぞろぞろで落ち着かないし、だからと言って結婚の準備なんてしたくないし、たとえそこに混ざっても針の筵には変わりない。わたしとこの家の人たちとの関係修復などありえないのだ。


だからこの時間は何気にわたしの心の癒しの時間になっていたりする。今もこの人の名前や詳しいことは知らないけど、不思議と一緒にいて楽しかった。



「引きこもりねぇ。俺には無理だなー、というか引きこもるほど同じ場所にいないし」



そこから彼の昔の話が少しされたけど、どうやら彼の一族?両親からして旅人で彼は生まれた時からいろいろなところを旅して育ってきたらしい。だから旅をするのは彼にとっての当たり前で1つのところに留まるほうが違和感を覚えるとか。


旅芸人とか楽師とかでそういうのは聞いたことがあるけど世の中にはそういう生き方をしている人もいるのね。想像もできないわ。


でもそういう生き方って自由って感じで憧れる。そりゃあ世間知らずを自覚している箱入り娘が憧れたところでどうにかなるようなものでもないけど。



「まぁわたしだって好きで引きこもってるわけじゃないんだけどね」