それは薔薇の魔法~番外編~




この場いるのも息苦しくて外の空気を吸うためにそっとテラスに出る。普段は監視がいて満足に外にも出られないので、今あの男性に目が行っていることに感謝しよう。


庭に出るとふわりと花の香りが鼻をくすぐる。この自然な香りを感じるのも久々だ。最近は香水の匂いしか嗅いでないもん。あれって匂いがきついからあんまり好きじゃないんだよね。


月の明かりに照らされた花たちを見て手で触れて匂いを嗅ぐ。……この花ってこんなにいい匂いしたっけ。あと心なしか花がみずみずしいというか元気なような…今日のために特別な手入れでもしたのかな。


なにをするでもなくただぼんやりと佇んで自然を体中で感じる。部屋に閉じ込められていては感じられない外の自由はとても心地よくて、同時に恨めしかった。


こんなに近くに、手を伸ばせば届きそうな距離にあるのにそれが届かないというのはもどかしくてイライラしてとてつもなく焦がれる。一度家を出て自由を味わったからなおのこと。



「こんばんは、お嬢さん」



無防備でいるところにいきなり声をかけられて思わず肩が跳ねる。でも驚いただけで恐怖は湧かなかった。だってこの声、さっきまで聞いていたものだったから。


案の定顔を上げればそこにいたのはさっきホールで歌っていたあの男性で。漆黒の髪が月明かりに照らされて濡れたように艶めいている。遠目からではわからなかったけど目元の黒子が男性の雰囲気を色っぽく見せていた。


……これはあの色ボケ変態が手を伸ばすのもわかるわ。まったくもってあいつの好きそうな人種である。