3人がまだこの国の城下町にいるときに上から木材が落ちてきて、マリーが咄嗟にローズちゃんを突き飛ばしたがマリーとジルバさんは間に合わずにその下敷きになったらしい。即死ではなかったが到底助かる怪我ではなく、助けられたその時にはすでにジルバさんとマリーは息をしていなかった。
不幸な事故ならまだ納得…はできなかったかもしれないけれど時間が癒してくれただろう。でもアランがひそかにこの国を出るまでの護衛としてつけていた者から聞いた話では、事故ではなくジルバさんたちを追っていたという人たちの企みで2人は命を落とし、1人の幼い子どもの心を深く傷つけた。
ローズちゃんは目の前で優しかった両親が木材の下敷きにされて血を流して冷たくなる様子を見た挙句、何人もの大人に連れ去られそうになったらしい。抵抗したときのものなのか暴力の痕もあった。
すぐに護衛が助けたがローズちゃんは現実から逃げるようにすぐ意識を失ったと聞いている。そして目を覚ました時にはマリーとジルバさんを喉が潰れるほどに呼んだあと、人形のような表情の抜け落ちた顔でただただ涙を流していた。
生きることを諦めてしまったような顔で泣くことしかできない幼い彼女が一体何をしたというのだろう。優しくてしなやかな強さを持ったマリーが、マイペースだけどいざというときには家族を守るあたたかなジルバさんが、何をしたというのだろう。
生まれて初めてこの世界の理不尽さを恨んだかもしれない。
「…アラン、」
「…なんだ?」
憔悴したアランの手に自分の手を重ねる。お互い冷えきってしまってはいるけれど、それでも温もりを分け合うように。
「私、ローズちゃんを城で引き取るわ」


