ぎゃんぎゃんと私をそっちのけにして言い合う姿に思わずどうすればよいかわからずに困惑してしまう。こんなに堂々と喧嘩する諜報員なんて果たしてこの世にいるのかしら。
とりあえず脱いだ靴を再び履くと後ろからドレスが軽く引っ張られてそちらを見ると妖精がいた。むしろ天使でもいい。
亜麻色の波打つ髪をふわふわさせて白いふくふくとした頬をほんのり色づかせ、零れ落ちそうなほどの大きなローズピンクの瞳をぱちぱちと瞬かせた天使が、そこにいた。って、あら?この瞳の色…
と天使の正体を理解したとき慌てたように私の名前を呼ぶアランの声がした。まぁこれだけおおっぴらに喧嘩していれば気づかれるわよねぇ、となぜか他人事のように思ってしまう。
「大丈夫かっ?」
「えぇ、全然平気よ」
むしろ私じゃなくて不審人物(?)のほうが大丈夫じゃなさそうだわ。意味がなんとなく違う感じになってしまうかもしれないけれど男性は頭のほう大丈夫だったのかしら。
未だ離れることのない小さな天使の手をふにふにしていればアランは喧嘩をしている男女を見て大きく目を見開いていた。まるで信じられないものを見た時のように。
言い合いをしていた男性のほうも何かに気付いたようにこちらに視線を向けてキョトンとしたあとニッコリとそれはもう麗しい笑みを浮かべて。
「久しぶりだね、アル」
「…何をしているんだ、ジルバ」
重々しいため息を落としたアランに対しニコニコしている男性はひらひらと軽く手を振って見せた。


