このうちに人でも呼びに走り回ろうかしら、とさりげなくドレスの中で高いヒールの靴を脱いで男性に目を向けて思わず目を見開いた。
「あぁ、俺のこと覚えててくれたんだ。寂しがってくれたんだね…嬉しいよ」
薔薇に恋でもしているんじゃないかってぐらいに優しい顔をして甘さの含んだ声で語りかけている。触れる指先も慈愛に満ち溢れこちらは視界にも映らないというようにただ薔薇の花だけを見つめて。
……なんだこの男と思った私は至極当然で何も悪くないと思うのだけどどう思うかしら。脳内のアランに語り掛けやはり私は悪くないと1人頷く。
「でも元気をなくすのは悲しいな。さぁ、俺の手で、視線で、歌で、また艶やかに咲き誇っておくれ」
睦言でも囁くようにそう言った男性が息を吸い、その赤い唇を開こうとしたとき視界の隅から現れたものが風のようにこちらに来て止める暇もなく男性の頭を盛大に叩いた。それはもう景気のいい音がした。こう、パッシーンと。聞いているだけで痛い。
案の定それを受けた男性は痛みに悶絶して声も出せないのか叩かれた頭部に手を当てて震えている。あら、なんだか男性のほうが可哀想に思えてきてしまったわ。
「っ、痛いよマリー!!」
「貴方が魔法使おうとするからでしょ!!」
男性に負けず劣らず怒鳴ったのは女性のようで、男性と同じようなローブを羽織っていた。ただ走ってきたときにはずれたのか紅潮した頬までしっかり見えている。
茶色の髪はチョコレートのような甘い光沢を持っていて今は怒りで潤んでいる瞳は薔薇の花びらを煮詰めたようなピンク色だ。綺麗というよりも愛らしい顔立ち。


