ふふ、と楽しそうな笑みをこぼした男性が顔を隠していたフードを取ると癖のない艶やかな黒髪が零れ落ちた。思わず見入ってしまうほどの色香に無意識のうちに体が緊張する。


おそらくほとんどの女性がこの男性の前に立てば骨抜きになってしまうんじゃないだろうか。それぐらい整った顔立ちだ。密偵というより諜報員のほうがしっくりくるかもしれないわね。


黒髪の間から見えたのは深い緑の瞳。垂れ目がちなのが余計に顔立ちを甘く見せており、目元にある黒子が色気を出している。女性より色気ありそうで羨ましいわ。



「んー、とりあえず俺のこと内緒にしててくれない?ここに会いたい人がいるんだけどなかなか見つからなくてさぁ」



困ったような顔で「お願い、」と言う男性からは悪意は感じられない。本当に探し人がいるんだろうとは思ったものの不審人物を見つけていてそれを放置するのはこの城、ひいてはこの国の母として見過ごすことはできない。


人を呼ぶのは簡単、ここから大きな声を出せばいい、そうすれば近くにいる兵が駆けつけるだろう。けど単身ここに来るだけの技量があるならばそれは悪手にも感じる。


どうするのが最善かと考えていればふと男性がまじまじと薔薇を見つめているのに気が付いた。なんだかやけに熱心なまなざしにいぶかしく思う。ここまで来てなぜ薔薇。確かにここは薔薇で有名だけれど…