それから数日後、アランは執務があるためいないが私は時間が取れたので今日も薔薇園に向かった。


やっぱり元気がないように見えるのよねぇ。本当にどうしたものかしら…これを機に私も少し薔薇の勉強でもしようかしら。


ふわり、とかすかな甘い香りの風が頬を撫でる。



「おや、こんなところでどうしたの?美しい人」



まるで薔薇が語り掛けてきたような甘さを感じる声だった。一瞬呆気にとられるがすぐに警戒して立ち上がると少し離れたところに人が立っていた。


濃い茶色のローブを羽織っていて顔は見えないがその背の高さとさっきの声からして男性だろう。身ぎれいだが服はありふれたもので貴族階級の人間には見えない。そもそも貴族なら私の顔を知らないわけがない。



(つまり、他国の…)



それだけならいいが密偵などだったら面倒なことになる。毅然とした姿を保ちながらも城の中だからと侍女をつけなかったことを軽く後悔した。



「あなたこそ、ここは限られた人しか立ち入れないはずだけれどどこからいらしたのかしら?」


「あれ、そうだっけ?まぁ、細かいことは気にしない方がいいよ。それよりそんな怖い顔しないで、美しい顔が台無しだ」


「生憎と私の夫はそんなこと気にしない心の広い方ですから貴方にどう思われようと気にしませんわ」


「そうなんだ?」