とりあえず着替える必要があるかと考えているとルークが隣で「機嫌がいいですね」と声をかけてきた。


思わずルークの方に顔を向けるとまだ呆れているのかそういう表情をしながら眼鏡をかけ直している。



「昨日はあれだけ嫌がっていたのに、いいことでもあったのですか?」


「いいこと……ふ、そうかもしれないな」



脳裏に浮かんだのはローズピンクの瞳を持っていた少女。


庭師をしていると言い、目の前で歌を聞かせてくれた亜麻色の乙女。


優しく慈愛にあふれ、大切でたまらないというような甘い笑みを浮かべて歌っていた彼女。


その語りかけるような歌声は心にまで響き渡り、こちらの心まで穏やかで幸せな気持ちにさせてくれる。


あの純粋でまっすぐな愛情を向けられて育ったからこそこの城に咲いている薔薇はあんなにも美しいのだろう。


まるで、彼女の心のように。



「……何ですか。いきなり笑ったかと思えば黙ってニヤニヤして不気味な」


「どんどん口が悪くなっていくな」


「人の言ったことも守れない主にそこまで気を回す必要があるとお思いで?」



はっと鼻で笑い「さっさと着替えてください」と言ったルークは扉を開き出て行った。足音が聞こえないあたり扉の向こうで待っているのだろう。


ここにきて逃げ出す気はないのだが、前科があるだけに言っても説得力がない。苦笑しながら着替えるために立ち上がる。


ピタリとその動きが止まって中途半端なまま静止した。



「しまった…」



彼女の名前を聞いていない。