そして本人、自分の魔法で生き生きと咲く薔薇を見て満足したらしく、その力に目を向けられる前にとさっさと城から出て行ってしまったとか。短い時間ではあったが無二の友とも呼べるアランには「またそのうち会いに行く」という手紙を残して。


実際その判断は正しかった。旅人が城に滞在したのは一週間だけだったがその半分を薔薇のために歌っていたのだからそれはもう噂にもなる。ぜひ一度会いたい、という懇願書もたくさん来た。もちろん本人は出たあとなので不可能である。


その書の中に男色家で有名な伯爵家のものも混ざっていたのだから内心不満だったのが本当にさっさと出て行ってくれてよかったと心の底から思ったらしい。



「それなら私も噂くらいは知っていますわ。知り合いでしたのね」



会ってみたかったといえばアランは遠い目をしながら「当時私がここにいたとしても会わせたくなかった相手筆頭だっただろうな…」と呟いていた。それぐらい魔法だけでない魅力を持った人物だったらしい。


ますます会いたくなったがその旅人からは便りも来ていないので今現在どこにいるかどころか生きているかどうかすら不明なのだとか。



「残念だわ」



どことなくしょんぼりした薔薇の花びらを撫でて私もため息をこぼした。