「それでは、わたくしはここで」


「あぁ、婚約者殿とお幸せに」


「えぇ、シリル様も彼女とお幸せになってくださいな」


「……あぁ」



果たしてそうなれるのかどうかは甚だ疑問だが。


無表情の笑顔を浮かべれば扇子で口元を隠してはいるものの残念ながら溢れる笑みを隠せていない。



「ひとつ、わたくしが言えるとしたら彼女はシリル様をお慕いしていたと思いますわよ?」



悪戯っぽく瞳を煌めかせて笑みを浮かべるリリアス姫からの言葉に思わず「本当ですか?」と食いついてしまう。


本人から聞いたわけではないものの他者からも肯定された彼女の気持ちに少なからず私の自惚れではなかったのだと安堵した。



「ふふ、えぇ。助言するとしたら彼女は身分を弁えてというか、むしろ弁えすぎている賢い方なので多少強引に進めて断れない状況にして囲い込んだらどうかしら?」


「……そんなことをして嫌われない保証は?」


「あら、もし本当にシリル様を想っているならそんな強引さなど些細なことでしてよ?わたくしはそうしても彼に嫌われなかったですもの」


「………」



まさかの実体験からの話だったらしい。たしか彼女の婚約者殿は……いや、考えるのはやめておこう。