「確かに、貴女はその全てを持っているでしょう。否定はしません。が、貴女には圧倒的に足りないものがあります」
そっと腕を外して立ち上がると見上げてくるリリアス姫にまっすぐな視線を落とす。
「貴女はふさわしくない。私の妻としても、王妃の器としても」
自分を顧みずに他人を思い、そのために行動する思いやりや優しさ、それなくしてどうして人に思われるというのだろうか。
与えられるばかりでそれを与えない人間にどうして与え続けられるというのか。
思いやり、優しさ、慈しみ、全ては自らが与えて初めて他人から与えられる。
それに何より、
「貴女には私よりも、大切にしたい人がいるのではないですか」
「!!」
驚きから目を丸くするリリアス姫に初めて彼女自身の人間らしい表情を見た気がする。
ずっと気になっていた。彼女は私に自分がふさわしいと言いながら、そしてそのために手段を使いながらもその瞳は全くと言っていいほどに感情を表してはいなかった。
普通そう言うのなら何かしらの意図があるはずだ。それこそ恋情だったり打算的な欲望だったり、憧れや敬愛でも憎しみでも構わない。
でも彼女はあくまでそう言いながらも瞳はずっと冷静でわざと感情を出さないように自分を制御しているように見えて。


