「だからと言って自分の好みがこれと決まっているわけではないが…」



両親のように誰かを好きになったこともなければ誰かに焦がれたこともない。


もしあの縁談相手の中から1人を選び結婚したならば私も相手を愛することができるのだろうか……


何人かが走って来る音がして物思いから抜け出す。


そろそろ城の中にいると見つかりそうだな…


周りを見て誰もいないことを確認して外へ出た。小走りで庭に駆け込み、薔薇の生け垣の中に隠れる。


いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。さて、どうするべきか……


とりあえず今日の公務もあるし戻るのは前提として、と戻ったときの言い訳を考えているとカサリと微かな音と足音がする。


こちらに来ているか…1人、のようだが見張りの兵士だろうか。遠くからではあるが他の兵士もいるようだ。


数人ならまだしも1人なら押さえ込める自信がある。


1人でこちらに来るだろう兵士には申し訳ないが、少し静かにしておいてもらおう。