バタバタとした足音が前から聞こえ慌てて柱の影に隠れる。


その足音が遠ざかったのを確認してからそっと顔を出した。



「やれやれ、朝から忙しいことだ…」



その原因の一部、というよりは原因そのものであると理解しつつも私はくしゃりと前髪を上げた。


昨日付き人から「明日はちゃんと部屋にいてくださいね。呼ぶまで出ないでくださいね。絶対ですからね」と念押しされたにも関わらず逃げ出したのだから自分に非があることはわかる。


今頃あいつは頭を抱えているだろう。が、私にもいろいろあるのだから仕方ない。



「結婚、か」



幼いときからいつかするものとは思っていたが、いざ目前となると気が進まない。


仲が良く、恋愛結婚をした両親を見てきたからか、決まった年齢が近づいても色恋の類いの話をしない私に気を回したのだろう。


名のある貴族の娘たちを城に招いて縁談とは……ここまでされてしまえば結婚しないという選択はないに等しい。


しかし、その縁談相手の名前は見たが、どの人もこう言っては何だが結婚したいとは思えなかった。


招待された舞踏会などで顔を合わせたことがあったが、どの人も同じように見えてしまう。


端的に言って好みではなかったということだろう。