ふと顔をあげて本を閉じ、立ち上がる彼女にはっとして身を引こうとしたが遅かったらしく「誰?」と声をかけられる。
緊張と警戒、少しの怯えを帯びた声にますます失敗したなと思いながら、ここで叫ばれても困るので姿を見せると目を丸くして驚いていた。
驚きすぎてあたふたと慌てる様子にさっきとの差を感じてくすりと笑みが浮かぶ。
座ろうとしない彼女に座るように席を促したものの、困ったように眉を下げて遠慮する姿にやっぱり母上やあの姫君たちとは違うと改めて感じた。
「あの、シリル様はどうしてここに……?」
恐る恐る、という風に聞いてくる彼女に笑みを浮かべる。
「あぁ……我が儘な姫君たちの相手にも疲れてしまってね。ここなら静かにできるかと逃げてきたんだ」
本当は貴女がいたからなのだが、と思いながらそれは黙っておく。
私の言ったことが以外だったのか目をパチパチと瞬かせそんなことを言ってもいいのかと聞く彼女に素直に気持ちを吐露すれば、それが面白かったのかくすくすと小さく笑っていた。
あのとき、薔薇たちに向けていた柔らかく甘い笑みが今は私に向かって咲いている。
いつも困ったような顔をさせてしまっていた私にとってその笑顔が自分に向いているということは衝撃で。


